Kensuke Esato,M.D.
江里 健輔
 
江里 健輔
山口大学名誉教授
山口県立大学学長・理事長
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風のとき(宇部日報)

相性が悪い NEW
2006年01月11日

相性が悪い
       山口県立総合医療センター
          院長江 里 健 輔

ある患者さんからの真剣な申し出です。
「院長先生、私の担当医は親切で、よく私の話を聞いて頂いて、文句をいった立場ではないのですが、なんとなく相性が悪くて、診察を受けるのが苦痛なのです。変えて貰うことは出来ないでしょうね。病院を変わるしか方法ないのでしょうか」
いきなり、予想もしなかった話しで、どう返事してよいか、次ぎの言葉が見つかりませんでした。早速、担当医にはその理由として「技術ではない、単なる相性だ」と伝え、他の医師に担当して貰いました。担当医も患者さんの気持ちを理解していたようで、ほっとした表情でした。
昭和40年ごろはまだまだ患者さんの意向は全く無視されていましたので、「嫌な担当医」と思っても、不平を漏らすこともなく、その担当医に合わすように患者さんが努力していました。しかし、患者さんの自己意識が強まるにつれて、このように担当医を変えて欲しいという申し出が多くなりました。その理由の多くは「なんとなく相性が悪い」というものです。
「相性」とはいっしょに生まれること、一本の根もとから二本の幹となって分かれ出た木とあります(三省堂漢和辞典より)。この意味からすれば他人同士関で相性が良いことは期待出来ない筈です。しかし、多くの人は一生懸命努力し、相性を良くしようと努めています。この度の学習塾の教師の小学生殺害事件は単に「相性」が悪かったという理由で生じたと報道されていますが、あまりに幼稚で、大人に成り切れていない、教師になってはいけない人が間違って教師になったようなものです。
教師と生徒の関係、患者さんと医師との関係は少なからず似ているところがあります。「師」とは弱者を相手として「業」を営む職業と定義した文学者がいますが、確かに、生徒、患者は教師、医師からみれば弱者であります。このような弱者を相手にする人を選ぶ時、単に能力だけで選ぶので今回のような事件が生じるのです。
医療は患者さんと医療人との信頼関係で成り立つ「業」です。医師も人間ですので、以心伝心です。患者さんの微妙な心の動きは察知出来ます。医師も患者さんから信頼されていると自覚できれば、百倍のエネルギーが湧いて、患者さんの立場で診断・治療に専念出来ます。逆に、信頼されていないと思えば全くやる気がなくなります。しかし、医師から担当医を降りることも出来ず、辛い思いをしながら信頼をえるように努めなければなりません。しかし、信頼出来ない理由が「相性」の場合はどうしようもありません。自分の気持ちを積極的に述べて欲しいものです。それが患者さんにとっても、医師にとっても幸せなことです。そうする事が結局「品位ある、信頼が保てる医療」に繋がるのですから。




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