Kensuke Esato,M.D.
江里 健輔
 
江里 健輔
山口大学名誉教授
山口県立大学学長・理事長
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ふれあい毎日(毎日新聞)

代替療法
2006年01月12日

これは平成17年11月号に掲載されたものです。

          知っていますか?代替療法
                 山口県立総合医療センター
                     院長 江 里 健 輔

セカンド・オピニオン外来を受診される患者さんから「ハリ、灸はガンに効くのでしょうか?無駄なことでしょうか?」と質問される場合が多くあります。医療が信じられなくなったのではなく、今の医療に見放された患者さんに多いようです。このような患者さんは岸壁に追いつめられ、「藁でも掴む気持ち」ですから、少しでも効果があるという情報であれば、高価なものであっても、みさかいなく使われます。
このような医療を「代替医療」と云います。

「代替医療」って何でしょうか?
「代替医療(英国では補完医療と云います)」は西洋医学の補完、またはそれに替わりうる治療の総称です。経験的には効きめが認められているものの、科学的にはそれが証明されていないものです。西洋医学からみれば“非科学的”な“いやし癒し”と言えます。
病気には大きく分けて、器質的疾患と機能的疾患の二つがあります。前者はガンや潰瘍のように臓器に目に見える障害があるので、手術や薬などで治すことが可能な疾患です。これに対し、後者は発生した原因がはっきりせず、臓器には目に見える異常な変化はないのですが、機能が障害されているので、何故か体の具合が悪いといったような疾患です。多くの場合が心の持ち方、すなわち“気“に由来していることが多いです。「代替医療」は現代医学がもっともにがて苦手とする機能的疾患に拡がってきたものですが、最近は器質的疾患にも使用されるようになってきました。

そもそも人間には「自然治癒力」という力があります。知らないうちに病気になり、そのうちに治ったという経験は誰にもあるはずです。その良い例が風邪です。通常ならば、風邪は合併症を生じない限り、治療しなくても、安静にしていれば軽快します。これは科学的には説明出来ません。「代替医療」はこの自然治癒力を高めようとするものです。
「代替医療」にはカイロプラクテイック、鍼・灸、マッサージ、漢方などいろいろあり、いずれも古くから日常生活に根付いたものもあります。オハイオ州立大学のホング教授らの報告によれば、50才を越えた成人で鍼、漢方薬などの「代替医療」を利用している割合は2000年で71%と多く、2002年ではアメリカの全成人の約62%が「代替医療」を利用しているとのことです。
本邦では2002年「代替医療」の現状を調査した厚生労働省の報告によると、ガン患者3000人のうち、「代替療法」を利用していた患者さんは1338人(44.6%)で、その内訳はアガリスク55.5%, プロポリス21.7%, AHCC7.7%, サメ軟骨6.4%でありました。このようにガン患者さんは「代替医療」を積極的に使用していますが、効果が証明されていませんので、中にはまやかしのような製品もあり、注意しなければなりません。現在医学では治らないような病気には「代替医療」を使うことも必要でしょうが、現在医療で治る病気であるにも拘わらず、手術は危険で、100%安全でないからとか、抗ガン剤を投与されると熱や貧血などのような副作用が生じるなどの理由で、現在医療を使うことなく、「代替医療」へ飛びつくのは大変危険です。それこそ、助かる命を自分から失っているようなものです。あるテレビで、52才の乳ガンの妻に現在医療を受けさせず、「代替医療」だけを受けさせ、予想外に早く死亡したため、「代替医療」を勧めた業者を告訴してやりたいと涙ながらに訴えておられる夫の姿をみて、
「どうして、医師に『代替医療』の功罪を訊ねられなかったの?」
と、その夫の医療知識不足に同情を禁じえません。
「代替医療」は医療に替わる医療と書きますが、完全に替わりうるほど効果はありません。イギリスでは「補完医療」と云われているように現在医療の補充に過ぎないものととら捉えるべきです。従って、現在医療を拒絶してまで用いるような医療ではありません。その事を良く理解して、上手に使用することが大切です。



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