Kensuke Esato,M.D.
江里 健輔
 
江里 健輔
山口大学名誉教授
山口県立大学学長・理事長
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ふれあい毎日(毎日新聞)

一流新聞だから
2006年01月12日

これは平成17年10月掲載文です。

            一流新聞だから?
                    山口県立総合医療センター
                          院長江里 健輔

セカンド・オピニオン外来で、
「先生、主人が末期胃ガンで治療法がないと医者からさじを投げられました。どうしたらよいでしょうか?一流新聞に『即効性アガリスクで末期ガン消滅!』という広告が掲載されていましたので、使ってみようと思いますが、どう思われますか?」
「アガリスクが胃ガンに効いたという学問的証明がありませんので、効かないでしょうね。記事の内容のように本当に効くならば、この薬を見つけた人はノーベル賞を貰った筈ですよ」
「そうですかね?でも、一流新聞の広告に掲載されているぐらいですから、全く嘘ではないでしょう」
医師からさじを投げられた患者さんは少しでも治癒の可能性があるものなら何でもよいから頼りたい気持が十分に伝わってくるものですから
「あえて言えば、胃ガンには効きませんが、ご主人と貴方が効くと信じられるならば、心の癒しとなるでしょうから、使われたら如何ですか?くどいですが、胃ガンに効きませんから、納得しておいて下さいよ」
「判りました。使ってみます」
アガリスクの質問を受けるたびに、このような会話が交わされます。
このような真実と思えない広告を掲載する一流新聞にいつも苦々しい思いですが、最近この広告が薬事法違反という罪で関係者が逮捕されました(山陽新聞、10月6日)。それによると
「がんに効くとうたいキノコの一種アガリスクの健康食品を書籍で宣伝したなどとして、健康食品販売会社『ミサワ化学』の社長三沢豊容疑者、史輝出版の役員木村真木容疑者ら6人を逮捕した」
とのことです。ミサワ化学の2001年以降アガリスクの売り上げは約20億円あったそうです。患者さんと家族が信用されたのは一流新聞の広告であったこと、さらに、雑誌の監修担当に東海大学名誉教授の名が連ねられたことなどでした。
われわれ読者は一流新聞ということだけで、それらの新聞に掲載されている記事は全て信用しています。某新聞のように捏造記事が問題になっていますので盲目的に信用する読者にも責任があると批判する人もいますが、この逮捕劇の責任に一端は広告を掲載した一流新聞にもあると言えるのではないでしょうか?勿論、雑誌を監修した名誉教授は医師免許剥奪に相当するほど悪質です。
末期ガンの患者および家族の悲しみは健康人が想像出来ないほど深いものです。少しでも効果があると聞けば、全てを犠牲にしても、足を運び購入されます。昭和50年代、「丸山ワクチン」があらゆるガンに効くという口コミで広がり、東京まで出かけて購入され、投与を依頼されたものです。この薬には若干の医学的根拠がありましたので、情状酌量がありますが、アガリスクには効果があるという証拠もなく、雑誌に記載されている内容もすべて架空の体験談ですから許すことの出来ない広告です。一流新聞も広告内容の真偽を確かめることなく、収入アップのために掲載する体質に強い憤りを覚えます。まだまだ医学的にみて信じられないような広告が沢山掲載されています。代替え療法が盛んな現在、このような療法が年々広がり、患者を惑わすことになりますので、広告内容をチェックするシステムが必要です。さもないと、効きもしない療法を用いる患者が増えてくるばかりです。マスコミが刺激あるものをどんどん追い求めて、読者を普通でない世界に追い詰めるのは商売とは云え、末期ガンの患者さんのように苦境に陥れば陥るほど、心の深奥にある“妄執”に取り憑かれやすく、物事の正当性を判断できないような人達への配慮が欠けている対応に強い悲しみを覚えます。



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