Kensuke Esato,M.D.
江里 健輔
 
江里 健輔
山口大学名誉教授
山口県立大学学長・理事長
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ふれあい毎日(毎日新聞)

外科医が二人
2006年01月12日

これは平成17年6月掲載文です。


            外来担当医二人が不安?
                  山口県立総合医療センター
                      院長 江里 健輔

ある病院の診療科の医師が退職し、新しく二人体制になりました。慢性疾患で数十年その医師にかかっていた患者さんは医師が変わるということが心配で、病院を変わろうかどうかと思案しておられましたが、やはり近い病院がなにかにつけて便利だからということで、新しく赴任してきた医師にかかることにされました。
セカンド・オピニオン外来に受診され
「院長、これまでは一人の医師にかかっていたので、治療が一定して、安心出来ましたが、今度は二人の医師が私を診てくれることになりました。しかし、どうも二人の先生の話が違い、どちらの先生を信用してよいか不安です。以前のように、一人の先生にみて貰うか、あるいは、私の病状について二人の先生がたえず話合いをして話が違わないようにして貰うという訳にはいかないでしょうか?」
このような患者さんの不安をしばしば耳にします。確かに、受診する医師が一人ならば、医師と患者さんとの気心もわかり、良い人間関係となるでしょう。しかし、医師からみれば、一人の患者さんを一人の医師が数十年にわたり診察するほど不安なことはありません。医師に限らず、人間はある観念が正しいと信じていると、それに囚われて、抜け出すことは容易ではありません。胃ガンの診断で権威ある医師が「150人ぐらい胃内視鏡すると、一人ぐらい胃ガンを発見するものだが、一人もないと見落としではないかと不安になる」と話していました。見落としをなくすために病院では数人の専門医が内視鏡写真を再度見直すようにしています。しかし、外来患者さんについては、特殊な患者さんを除き、すべての患者さんについて医師間で定期的に情報交換している病院は希です。
外来患者さんの診察には時間が限られています。適当な診察時間は一人10分とされていますので、朝から夕方まで昼食抜きで診察しても一日40人ぐらいしか診察できません。医師はたえず見落としはないだろうか?など神経を集中しながら患者さんを診察しています。したがって、一人の患者さんに二人の医師が交互に診察することは医師のストレス解消に有用です。患者さんにとっても、二人の医師がチェックするのですから、見落としも少なくなり、より良い治療が受けられることになります。患者さんの状態はカルテに綿密に記載してありますので、二人の医師間の相互連絡は十分取れます。ダブルチェック出来る診療体制を設けたその病院は褒められるべきことです。
この患者さんの次のように説明しました。
「一人の先生から二人の先生が交互に診て、お互いの医師が貴方をチェックしてくれんですから、見落としも少なくなるでしょう。もし、どうしても納得出来なかったら、その点を遠慮せず、じっくり尋ねて下さい」
作家の五木寛之氏が
「おぎゃあ、と生まれたその瞬間から人間は四百四病というものを体の中に抱えているのだ、と考えて、バランスをくずさず、不安定な状況にならないように日常生活で気をつけていく。自分の体や心は自分で管理しなければいけない」
と述べています。政治の世界の「丸投げ」は通用するかもしれませんが、「命」の丸投げは悲しさ、哀れさ、悔やみが残るだけです。



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