Kensuke Esato,M.D.
江里 健輔
 
江里 健輔
山口大学名誉教授
山口県立大学学長・理事長
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癒やしのそよ風(ほうふ日報)

歯は寿命に関係する? NEW
2006年03月04日

           歯は寿命に関係する?
                 山口県立総合医療センター
                        江 里 健 輔



友人がこんな話をしてくれました。
「俺のお袋は94歳だが、眼鏡なしで新聞が読めるし、補聴器もつけていない、60歳ぐらいの若さで、子供ながらびっくりしている。何故か、よう判らんが、とにかく、歯がよい。すべて自分の歯で入れ歯は一本もなく、少々固いものでも平気で口に入れている。長生きの秘訣はどうもこの歯にあるように思う。動物が死ぬるのは歯が悪くなって食べられなくなった時であるから、おれの考えは正しと思うよ」
まったく医師らしくない根拠のない話ですが、ほんとに、長寿の秘訣は歯の良さなのでしょうか?
そんな時、「永久歯の数は心臓病の発生に関係する」と題する論文を読みました。それによりますと、40〜79歳の4200人を対象とした調査で、なくした歯が5本以下の人が心臓病に患った割合は21%、6〜31本なくした人のそれは60%,まったく自分の歯がない人の81%が心臓病に罹っていると報告されています。より良い健康状態を維持するためには健康な歯を持つことが重要であるという証拠です。アメリカ歯根医学会の会長マルク・バルソンさんは「人工歯の素材や技術は近年目をみはるように進歩してきたが、外観的にも、機能的にも自分の歯に勝るものはなく、また、失う歯が多ければ多いほど心臓病を引き起す割合が高くなる。更に食物のそしゃく咀嚼も不十分となり、消化にも不都合を生じ、いろいろな病気の原因となるので、歯の病気は寿命に大きく関係する」と述べています。アメリカ人は自分の歯を維持することに強い関心を持っていて、アンケート調査を受けた30%の人はいくらお金をかけても自分の歯を残しておきたい、また、約76%の人が抜歯するより根管だけは残しておきたいと望んでいるそうです。日本にはこれほどの強い関心はないようですが、歯周病が生活習慣病の一つであるという認識は次第に高まってきています。歯周病は体力、すなわち、免疫力が低下した時に発生するので、健康バロメータの指標であると言われています。
当然といえば当然ですが、栄養源をとる所は“くち”ですので、これが障害されていては栄養が充分補給できません。でも、歯の病気が全身病を引き起こす原因の一つであるというような認識を持っている人は少ないようです。私は心臓血管外科医で歯科医ではありませんが、元気であった人が突然原因不明の発熱をきたし、感冒と診断されながながと治療され、次第に体力がおちて数日間で見る影もなく消耗された患者さんを数多く診てきました。いずれも、最後に心臓弁膜症とわかり、弁膜を人工弁とやりかえた手術をしたものです。これは虫歯を起こした細菌が弁膜に付着して、弁が機能しなくなり、死亡していくものです。歯は自家用車のタイヤのようなものです。長い間使用すれば摩耗し、ブレーキを踏んでも直ぐには停まりません。歯も摩耗してきますので、日頃より手入れをしておくべきです。最近の歯医者さんは歯の定期検診日が近づくと、自動車販売会社のようにとその日を連絡してくれます。
歯の病気は直ぐにいのち生命に関係しませんが、糖尿病、高血圧のように放置しておくと命取りになります。冒頭の話しのように長生きするには歯にも注目する配慮が欲しいものです。



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