Kensuke Esato,M.D.
江里 健輔
 
江里 健輔
山口大学名誉教授
山口県立大学学長・理事長
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風のとき(宇部日報)

欲しい充実した医療体制が(2006,3,28) NEW
2006年03月29日

          欲しい充実した医療体制が
                山口県立総合医療センター
                       院長 江 里 健 輔


執刀医が逮捕されるという驚くべき事件が医療人を困惑に陥らせています。事件(このような言葉はふさわしくありませんが)は福島県の某県立病院で行われたお産の手術で、癒着した胎盤を剥離する操作が不適切であったため、大量出血を招き、患者さんを死に至らしめたという内容です。この病院の常勤産婦人科医は一人で、全ての産婦人科医療を一手に担っていたようです。だからといって、この医療事故を正当化するつもりはまったくありませんが、再びこのような不幸な事件を起こさないためには患者さん及び家族には衷心よりお悔やみ申しあげながら何らかの対策を早急に講ずべきと思います。
最近、度々、報道されているように病院に勤務する産婦人科医や小児科医不足が深刻な問題になっています。不足の理由は産婦人科医や小児科医になる医師が少なくなったためと開業される医師が増えたためです。一方、これらの診療科医を希望しない理由は多くの病院が常勤が一人あるいは二人体制であるために休みがとれず一年中働かねばならず、想像以上に超多忙である事、医療訴訟が多い事、それなのに給与は他の診療科医と同じであることなど沢山あります。普通の仕事は職場を離れると仕事から解放され、ゆっくり出来ますが、医師は職場を離れていても、「待機」制(何時呼び出されても出勤出来るように準備しておくこと)がありますので、リラックス出来ません。常勤医が二人であれば交替で「待機」しますし、一人であれば毎日が「待機」です。さらに、受け持ち患者さんが急変すれば患者さんのそばを離れることが出来ません。勤務医の待遇が良くないと医師が主張するのはこのような「待機」制が考慮されていないからです。勤務時間内がどんなに忙しくても、職場を離れれば仕事を忘れることが出来る環境になれば産婦人科を希望する医師は増えるでしょうが、今のままではこれらの診療科の医師不足は今後も続くでしょう。
では、どんな解決法があるのでしょうか?
医療は年々進歩し、複雑化しています。そのような医療環境についていくにはたゆまぬ勉強が必要となります。勉強するには余裕な時間が必要です。常勤医が一人あるいは二人では仕事に追いまくれ、勉強するどころではありません。更に、自分の知識が年々遅れていくことが判りますので、焦燥感にさいなまれます。この解決には少なくとも4人以上の常勤医よりなる医療チーム体制を作りあげることです。現在、山口県内で常勤産婦人科医が4人以上の病院は数ヶ所しかありません。患者さんに満足される医療を提供し、ゆとりある職場で医師が仕事できる体制にするには診療科の集中化しかありません。集中化すると当然常勤産婦人科医あるいは小児科医不在の病院が生じます。不在になりますと、地域住民から不平・不満が続出します。
ここで考えて欲しいのは、今のように医学・医療が進歩しますと、患者さんが満足される医療を提供するには昔のように一人の医師では対処出来ないという事です。このような現状を皆様もよく理解され、医療チーム体制づくりを支援していただきたいのです。



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