Kensuke Esato,M.D.
江里 健輔
 
江里 健輔
山口大学名誉教授
山口県立大学学長・理事長
執筆情報 [詳細ページ]
赤ページ

ーセカンド・オピニオン外来でー NEW
2006年04月26日

          セカンド・オピニオン外来で
                    山口県立大学
                       学長 江里 健輔


医療では患者さんの要望に応えることはもっとも大切なことです。セカンド・オピニオン外来も患者さんの不安・不満を解消する一つで、政府もその必要を認識し、平成18年度の診療報酬改定で、セカンド・オピニオン外来に紹介した場合、診療報酬に算定し、積極的にセカンド・オピニオン外来を推進することとなりました。それに伴い、セカンド・オピニオン外来を新たに設置しようとする病院が増えています。平成15年9月よりいち早くこの外来を担当している私にとって、セカンド・オピニオン外来が各病院に設けられることを歓迎する一人ですが、その内容が患者さんの期待に担うものであるかどうかを考える時、若干の危惧を感じます。
胃ガンと診断されたご主人のことで奥様が当センターのセカンド・オピニオン外来を受診されました。いつものように、私の名刺を差し出しながら
「院長の江里です。遠いところからよくいらっしゃいました。持ち時間は1時間ですから、十分時間はあります。何でもよろしゅうございますので、お話下さい」
とセカンド・オピニオン外来の主旨を伝えたところ
「院長先生、本当のことを話してもよいでしょうか?誰にも言われないでしょうね。これまでかかっていた先生に黙ってきたものですから」
と切羽詰まった様子です。
「医師には守秘義務があります。貴方のことを第三者に話しますと、罰せられますので、決して、第三者に話すことはありません。ご安心して下さい」
奥さんはほっとされ、希望する病院で手術が受けられないようなことがあってもよいのでしょうかと、次のように話されました。
ある病院で進行胃ガンと診断され、直ぐ手術するように言われました。これまで元気であり、全く症状もないので、誤診で、ひょっとすれば、ガンではないかもしれないという一抹の期待をもって、別の病院のセカンド・オピニオン外来担当のA医師を受診し、事情を説明しました。A医師は早速最初の病院の担当医にある患者さんの病状を聞いて欲しいと友人に頼まれたので連絡したと患者の気持ちをくみ取りながら情報を集めてくれました。その結果、最初の病院は信頼おける病院で、組織検査でガン細胞が見られるので、誤診ではない、直ぐ手術をするよう勧められました。それもA先生が勤めている病院でするようにとのことでした。
奥様はA医師の病院は自宅から数時間も離れたところにあるが、最初の病院は自宅から5分たらずのところにあるので、手術後の看護や見舞いなどなにかと便利なために、再び、最初の病院を訪れ、セカンド・オピニオン外来を訊ねたことなど全てをうち明けて、手術を受けたいと申し出たところ
「困ったですなあ。貴方が受けられたセカンド・オピニオン外来担当のA先生は私の恩師です。その先生が自分のところで手術を受けることを勧められたのであれば、私が貴方を執刀するわけにはまいりません。そちらで受けて頂けませんか?」
「いろいろな面で自宅と近いこの病院の方がよいのですが・・・、それにインターネットで調べても、この病院の手術成績は良いので、遠方のあの病院にわざわざ行きたくないのですが」
その医師は黙り込んでしまいました。
そのような話しを聞いて、私は
「セカンド・オピニオン外来担当のA医師は有力者ですので、最初の外科医は彼の意向を無視して、貴方を手術しないでしょうね」
と理不尽な説明をせざるを得ませんでした。

セカンド・オピニオン外来の目的は患者さんの不安・不満などを解消するのであって、患者さんを呼び込む窓口ではない筈です。医学・医療の進歩で、一つの疾患に対していろいろな治療法が開発され、インフォームド・コンセントの必要性が叫ばれ、医師が患者さんに治療法を決めることは好ましいことではなくなりました。医師はいろいろな治療法の利点、欠点を患者さんに詳しく、判りやすく説明し、その説明を踏まえて患者さんは希望する治療法を自分自身で選択するようになりました。このようなインフォームド・コンセントが定着するには患者さんおよび家族が病気のことを正しく理解しすることが必要です。しかし、現実には医療に詳しい患者さんはまだまだ少なく、どれが適切な治療であるかを決めることは不可能です。そこで、少しでも患者さんの意思決定の参考になればということで、各病院でセカンド・オピニオン外来が設けられるようになったわけです。したがって、セカンド・オピニオン外来は患者さんを呼び込む窓口であってはならないわけです。A医師のように自分の病院で手術を受けることを勧めることはセカンド・オピニオン外来の主旨から離脱しています。

私がセカンド・オピニオン外来を始めた平成15年9月ごろには医師から異様な目で見られていました。その理由はセカンド・オピニオン外来を通じて、他の医療機関で受診している患者さんを取り込むのではないか、さらには、既に受診している医師と反対の意見を述べて、前医を中傷するのではないか、そのために患者さんは医師不信に陥り、医療訴訟が増えるのではないかなどなどでした。患者さんもこのような動きを察知され、前医には無断で、紹介状を持たずにおそるおそる受診されるような状態でした。しかし、紹介状を持ってセカンド・オピニオン外来を受診された患者さんはこれまで以上に前医を信用されるようになり、積極的に治療を受けられるようになりました。
それぞれの病院の外来には多くの患者さんが殺到しますので、外来での診察時間は限られています。このことが説明不足となり、患者さんの不安を更に大きくし、終局的には医療不信に陥ってしまわれます。このような場合、患者さんも勇気をもって、外来担当医に「私のために時間を割いて下さい」と申し出て欲しいのですが、多くの患者さんは躊躇されます。
そこで、診察終了時に
「何か尋ねることはありませんか?聞きづらければ、セカンド・オピニオン外来を活用されてはどうですか?」
と医師の方から患者さんに聞いて欲しいと思います。
私のセカンド・オピニオン外来も紹介状を持参される患者さんが増えて参りました。これは、患者さんも意思表示をはっきりされ、医師もセカンド・オピニオン外来を理解してきた証拠です。
信頼がない限り、真の医療は成り立ちません。医療人は患者さんの気持ちへさらに一歩踏み込むことが必要です。
診察の最後に
「何かお聞きになりたい事はありませんか?」
と是非声をかけてあげて下さい。





[ もどる ] [ HOME ]