Kensuke Esato,M.D.
江里 健輔
 
江里 健輔
山口大学名誉教授
山口県立大学学長・理事長
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癒やしのそよ風(ほうふ日報)

少子化とデータ捏造 NEW
2006年06月06日

            少子化とデータ捏造
                      山口県立大学学長
                        江 里 健 輔


少子化とデータ捏造とはまったく関係ないようですが、どう思われますか?
以前には見られなかった、信じられないような学者のデータ捏造が沢山報道されています。真実の追求をライフワークとしている学者が「嘘」を言うことは絶対に許されないことですが、そうせざるを得ない大学環境も無視できません。1992年度、205万人とピークであった18才人口は少子化で2005年度には137万人に減少しました。さらに、2020年度には120万人まで落ち込むと予測されています。これに対し、大学の入学定員はあまり減っていないため、需要調整が破綻し、2007年度には志願者と入学者数が一致する「全入時代」となります。大学を選ばなければ、志願者はどこかの大学に必ず入学できるようになり、大学が「選ぶ」から「選ばれる」ようになります。すでに入学定員を満たしていない私立大学の割合は、4年生大学で29%,短大で41%に達し、山口県にも学生の定員割れが生じ、経営破綻に陥り、再建申請している大学があることは知っておられるでしょう。少子化はこれからどんどん増長するので、大学は生き残りをかけていろいろな対策を講じなければならなくなりました。これまではぬるま湯につかって気持ちよくしていた大学がだんだん気分が悪くなり、体を刺激する熱い湯を浴びなくてはならなくなりました。それが大学間の競争です。政府は公務員削減を主眼として、まず国立大学を法人化しました。法人化となり、黙っていても国から与えられていた予算が運営交付金となり、自己改革しない限り年々交付金が減って、大学運営ができないような仕組みとなりました。ちなみに、現在、運営交付金は国立大学全体で毎年100億円程度減額され続け、これは単年度でみても大分大、宮崎大の一校分の運営費交付金に相当します(小沢洋明:国立大学法人ム発足二年の現状、経済、No127より)。大学としては交付金の目減りを授業料値上げ、人件費削減、あるいは外部導入資金獲得で補わなければなりません。授業料値上げ、人件費削減は容易ではありませんので、どこの大学でも外部導入資金獲得に目頭を熱くして競争するようになりました。研究者は独創性豊かな、時間がかかる研究課題を敬遠し、短期間で成果が期待出来、お金になりそうな、民間会社が好みそうな課題に的をしぼるようになりました。一方、大学は「外部資金」が取りやすい研究に学内予算を投入するようになりました。このような競争は各研究結果を時間をかけて検証する作業を割愛し、間違った「成果」のひとり歩きをもたらすことになります。すなわち、外部導入資金が獲得出来ない学者には大学首脳陣も冷たい視線をむけ、研究費も配分しなくなり、益々研究が出来なくなり、大学の「生き残り」のためよりも学者自らが「生き残り」をかけて危ない捏造に走ることになります。非常に嘆かわしいことです。
教育研究は国の根幹をなし、その財政負担は国にあるべきものです。過剰な競争原理は大学が単なる専門職業人養成機関になる危険をはらんでいて、「科学立国日本」が寂しく感じられますが、どうでしょうか。



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