Kensuke Esato,M.D.
江里 健輔
 
江里 健輔
山口大学名誉教授
山口県立大学学長・理事長
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癒やしのそよ風(ほうふ日報)

責任者は誰れ NEW
2006年07月06日

        責任者は誰れ  ム慈恵医大・死亡事件から
                山口県立大学理事長(学長)
                         江里 健輔


私の前任地病院には治療裁定委員会を設置し、患者さんの診断・治療を担当医にだけに任すのではなく、病院全体が取り組むようにシステム化していました。主治医およびその上司が診断・治療に難渋した場合、この裁定委員会に上申し、病院長は直ちに関係医師、看護師、薬剤師、臨床検査技師を集め、病院としての方針を決定するものです。その中には転院させたのが良い場合、主治医を代えた方が良い場合などさまざまです。
慈恵医大で2002年前立腺ガンに対し、「腹腔鏡」を使った前立腺摘出術を受けた60才男性が手術1ヶ月後に死亡するという悲しい出来事が発生しました。この出来事に対し、東京地裁は2006年6月15日「主治医を含め手術に関与した3人は手術に必要な高度な技術を持っていなかったのだから、手術を避ける注意義務があったが、これを怠った」と指摘。3人にいずれも執行猶予つきの有罪判決を言い渡した。さらに、この病院では上司の監督がほとんど機能していなかったとの理由で「責任を3人に全面的に負わせることは相当ではない」(朝日新聞2006,6,15より)というコメントも加えています。この3人の医師としてのモラルが欠如していることに厳しい処罰をするのは当然ですが、上司、この場合、所轄教授、病院長にたいする処罰が全くないことに100%満足する判決とは申せません。所轄教授は手術に関与していないので、不問となり、一方、病院長は辞任していますが、これでは責任をとったことにはなりません
民間会社では辞任すればその会社を辞めなければならず、肩書きがなくなっただけではなく、極めて厳しい処罰を受けたことになりますが、大学病院長の辞任はこれとはまったく意味合いが異なっています。病院長は教授会の選挙で教授の中から選ばれ、任期を全うしたら、元のポジションに戻るだけの兼任ですから、病院長を辞めても、任期が早く来た、一つの肩書きがなくなったという程度のことで、教授職辞任ではないのでなんら痛みはありません。
医療はチームで行われますので、一人の失敗はチーム全体の責任となります。この度の出来事では執刀医、主治医、さらに手術をサポートする第一助手にも過失があると判断し、処罰されました。であるとするならば、そのようなチームを容認した病院長にも責任が及ぶべきで、連帯責任であります。慈恵医大では院長や各診療科の部長で構成される「外科系医師信任委員会」で、手術能力があるかどうかチェックするシステムを設けたと報道されていますが、これは一歩前進ですが、このシステムで検討したにも係わらず、許されない事故が生じた場合、委員会はどのような責任を取るのでしょうか?
委員会が責任を取るのは当然ですが、その中に病院長職辞任のみならず、教授職も辞任しなければならない事項が加えられるべきです(このような事項が規定されているかどうか不明ですが)。いくらマスコミの前で頭をさげ、謝罪しても根幹に係わるポジションに影響しなければ、事故発生予防策とはなりません。
民間会社がしていることは医療界にも出来るはずです。一人の医師のミスがチーム全体、さらには病院全体に波及するとなれば日常の業務に緊張感が生まれ、病院長も肩書きだけのポジションに終始しないで、言葉は適切でないが、「首をかけた」職種に様変わりするでしょう。





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