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集金をちょっと拝借 |
集金をちょっと拝借 山口県立大学理事長(学長) 江里 健輔
店主が掛け金を集金して帰ってきた若い男に 「280円足らない。どうした。どこかでお釣りを間違えたかあるいは落としたのじゃあるまいか?」 若い集金人は 「あっ!!タバコ銭がなかったので、集金からタバコ代金280円借りました。明日必ず返却しますので」 と全く悪意はなく、また悪いことをした意識もないようにしゃー、しゃーと返事した。その態度にはそのようなことで詰問されるのが理解出来ないという風情であった。 店主は 「お前な、ちょっとの時間でも公金を使ったのは間違いないし、また、返却すれば良いというものではないんだよ、この場合、公金を使わなければタバコが買えないのなら、タバコを買うことを控えるべきだ」 若者は 「明日返却するのですから、問題ないのではないですか?」 このように、今の日本は「公」と「個」が混同されているような気がしてたまらない。 日銀総裁福井俊彦氏が村上ファンドへ1000万円拠出したことが問題となり、福井総裁は何ら問題ないと釈明している。 出資理由を 「激励のために1000万円を投資した」 日銀総裁になって解約しなかった理由について 「一定勘定で具体的運用は指示できず、解約する必要はなしと判断。当時は適切な処置であった」 解約理由を 「当初の志に沿っているかどうか確信がもてなくなった気持ちの累積だ。利益目的ではない」 と述べている(北海道新聞2006,6,15)。解約された2月はライブドア摘発後である。 法律的には問題がなくても許される行為と許されない行為があるはずだ。日銀の総裁ともなればその一言が経済市場に有形無形の影響があることは素人でも判る。日銀総裁ぐらいの偉い人(賢人ではない)ならば、村上氏が高い運用成績を上げる能力があるかどうか判るはずだ。心の底から村上氏を応援する気持ちであるならば、利益を受け取るべきではない。この世の中にはまだまだ激励して貰いたい人が多くいることに気づかれていないのであろう。まさに冒頭に述べた集金人となんら変わりはない。ちょっと公金を借用し、戻せば何が悪い、という発想と何ら変わりはない。日本には昔より金儲けは罪悪で、清貧が善とする発想がある。村上氏も逮捕直前の記者会見で自分が嫌われた理由は「めちゃめちゃのもうけたから」と強調した。欧米ではお金儲けは悪いことではない。沢山儲けて、しかるべき組織に沢山寄付するという思想が脈々とあるために米マイクロソフトのビル・ゲイツ会長が尊敬されるのである。法律に違反することなく、倫理的にも許される範囲で、汗を流してお金を儲けることは賞賛されるべきである。しかし、国のトップ機関の長たる者が自分の行動が倫理的に反していることが判らないようでは、この国の将来はどうなるかの心配でたまらない。 今の若者が悪いのではない。今の日本にいろいろな方面で強く影響及ぼす人々がおかしいのである。
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