Kensuke Esato,M.D.
江里 健輔
 
江里 健輔
山口大学名誉教授
山口県立大学学長・理事長
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風のとき(宇部日報)

肩書きは必要でしょうか? NEW
2006年09月01日

肩書きは必要でしょうか?
       山口県立大学理事長(学長)
              江里 健輔


最近はこれまでと少し違った世相となったと思われませんか?
従来の選挙では有名大学卒とか、高級官僚のような肩書きがあればほとんどの候補者は勝っていたものです。しかし、今年行われた数々の選挙ではこのような素晴らしい経歴の候補者が次々と落選の憂き目をみるようになりました。看板が当選の大きな武器とはならなくなったということです。
読売新聞に「地球を読む」という欄があります。毎回、著名な有名人がいろいろな問題について興味ある提言をされています。8月6日には佐々木 毅氏が「対北、戦略のねりなおしを」と題して日本外交の課題について北朝鮮問題を一度冷徹に見直して、日本の外交力の着実な再建を図ることこそ、次の政権の大きな課題であると主張しています。どうしても理解出来ないことは佐々木氏の主張ではなく、肩書きの紹介です。それには、佐々木 毅学習院大教授(前東大学長)とあります。現職を紹介するのは当然でありますが、どうして()の中に前職を紹介する必要があるのでしょうか?まさか、学習院大教授だけでは佐々木氏の主張が弱々しく、前東大学長をつけることで読者を説得させる強力な武器となるということでしょうか?
何故、学習院大教授の肩書きだけでは不十分なのでしょうか?
私は山口大学を退官し、山口県立総合医療センターに赴任した時、山口県立総合医療センター院長という肩書きをつけた名刺を作りました。しかし、途中から「山口大学名誉教授」なる肩書きを付け加えました。残念ながら、肩書きを付け加えたことで、第三者が私に接する態度が変わってきたことです。私の本意ではありませんが、組織の長として組織を発展させるために仕方のない事かな、というのが私の認識でした。医療の世界でも同じような事に遭遇することがあります。
虎ノ門病院のインターン生であった昭和39年ころ、先輩が教えてくれた話です。病院長は東大名誉教授で、退官記念講演で在任中の誤診率を公表して、世間の注目を受けた文化勲章授賞者沖中 重雄先生でした。東京大学在任中は薬を処方される機会が少なかったので、薬の商品名をあまりご存じなかったのか、必ずお弟子さんに自分が処方したい薬名を尋ねて、処方されていたそうです。患者さんは有名な病院長が処方された薬だけに大変良く効いたと言いながら、なんども所望されたそうです。医師達の間では同じ薬なのに沖中病院長が処方されると「何故効く」のと自問自答したそうです。今ではこれは「プラセボ効果」ということになります。すなわち、病院長という肩書きが病気を持った患者さんの気持ちに「プラスα」をもたらしたためです。このように、肩書きは良きにしろ、悪しきにしろ有形無形の影響を第三者に与えます。肩書きに接した途端、その人の生業(なりわい)を判断する風潮がありますが、これを国民から払拭するよう、マスデイア界でも再考していただきたいものです。
コメントを求める際でも、選挙公報でもあらゆる場で出身校あるいは大学を記載せず、現職だけを紹介するだけで、しかも国民も納得する社会を作り直してはどうでしょうか?




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