Kensuke Esato,M.D.
江里 健輔
 
江里 健輔
山口大学名誉教授
山口県立大学学長・理事長
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癒やしのそよ風(ほうふ日報)

集団検診で死亡とは? NEW
2006年09月01日

            集団検診で死亡とは?
                山口県立大学理事長(学長)
                          江里 健輔


85歳の女性が胃がんの集団検診でバリウムを飲んで、腸閉塞で死亡したとの報道がありました。記事を読んだ瞬間、「どうして85歳の老人に胃がんの検診をしたの?」という疑問が湧いてきます。腸管機能が低下している高齢者ではバリウムを使用した場合、腸閉塞を来すことは稀ではありません。従って、検診前に腸管に閉塞や狭窄がないかどうかをしっかり問診し、検診後は十分な水分を摂取させたり、緩下剤を処方してバリウム服用後の合併症発生に万全の体制を整えておくことが必要なのです。それにも関わらず、死亡されたことは本当に残念で、患者さんおよびご家族には心からお悔やみを申しあげたいと思います。
問題は85歳の高齢者に胃がん検診をすべきであったかどうかです。医学・医療の進歩で、かなりの悪性腫瘍、特に胃がん、肺がん、結腸ガン、乳がん、子宮ガン、前立腺ガンなどは早期診断、早期治療で治癒するようになりました。例えば、乳がんなどは早期である一期で手術すれば、5年生存率は90%以上であるのに対し、末期である四期では15%程度で、その差は歴然としています。このような事実より検診の重要性が認識され、当局はあらゆる手段を用いて検診することを勧めています。しかし、山口県の検診率は20%ぐらいと他の県と比較して決して高くありません。その意味で検診を勧めることは重要、かつ必要でありますが、85歳の高齢者に検診が必要なのでしょうか?
答えは「ノウ」です。日本の平均寿命は男性79歳、女性85歳前後です。この女性は既に平均寿命を過ぎています。そのために、検診で胃ガンが発見されても早期であれば、高齢者であるので、発育も遅く、胃ガンで死亡されるには十数年先であります。一方、進行がンであれば、便鮮血陽性とか、食欲不振、体重減少などの症状が表れている筈です。日頃から注意深く世話をしていれば、この程度の簡単な情報は得られるはずである。集団検診という名目で無選択に誰にもすることは許されないことです。想像するに、死亡しておられますので、この高齢者に対するケアも必ずしも十分であったと言えないかもしれません。腸閉塞の診断・治療は容易で、日常茶飯事の疾患ですので、手遅れか、全身状態が極端に悪いのでなければ死亡されることは考えられません。
検診は必要ですが、年齢、全身状態、生活力など全人間性を配慮しながら、検診すべきだったと思います。






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