Kensuke Esato,M.D.
江里 健輔
 
江里 健輔
山口大学名誉教授
山口県立大学学長・理事長
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風のとき(宇部日報)

治療を受ける前に NEW
2006年11月23日

治療受ける前にチェックを
     山口県立大学理事長(学長)
              江里 健輔

京都よりメールで次ぎのような問い合わせがありました。貴方ならどうされますか?
「私の母は76歳です。長年、心臓弁膜症を煩い、この度、医師から手術を受けなければ数年以内の命ですので、早く受けられた方が良いでしょう。しかし、高齢で重い呼吸器障害がありますので、かなり厳しいです、と念をおされました。母は長年この病院でお世話になっているし、担当の先生や看護師さんとの面識もあるので、手術するならこの病院で受けたい、と申しています。この病院の年間心臓手術例数は年25例ぐらいで、また、手術の間に心臓の代わりをする人工心肺を運転する臨床工学士は常勤でないため、手術の度に他の病院から手伝って貰っているそうです。私としてはもっと沢山手術している病院で手術を受けさせたいのですが、母の気持ちを考えると決心がつかなくて悩んでいます」
でした。
私は
「治療の対象疾患には急性期と慢性期があります。前者で、しかも手術となれば技術の拙劣が極めて大きいです。お母さんが入院されている病院の年間手術件数が25例ではあまりに少な過ぎますし、心臓手術で重要な分野を担う臨床工学士が常勤でないのは問題です。従って、もっと経験豊富な病院で手術を受けられることをお勧め致します。今の医療が患者さんの気持ちを十分配慮して行われているとは申せませんが、医療の根本は優れた技術で、これを無視しては患者さんに配慮したことにはなりません」
と返事いたしました。
再び、
「病院を変わりたいが、手術経験が豊富な病院を紹介して貰い、その上、紹介状を書いて貰うことをお願いして、失礼ではないでしょうか?」
と質問されました。
「ありのまま、素直に尋ねられた方が良いでしょう。それで気分を害するような担当医であれば今後診察を受けられることには疑問を感じますネ」
と返事いたしました。やがて、担当医の先生より他の病院を紹介され、そこで手術を受けることになりました。手術が終われば再びお世話になることを心よく引き受けて貰い、母も今の病院に帰れることで納得しましたとのことでした。
厚生労働省の検討会はこの10月31日に病院などの医療機能情報を公表する新たな制度の実施要領を決めました。その中には治療結果に関する分析の有無があります。これは手術件数やその結果など診断・治療に関するデーターを第三者が見えるような場所に掲示することを義務化しています。公表することで患者さんが医療機関を選択することが容易となり、医療機関の機能分化が進み、患者さんに高度な効率的な医療を提供することになります。これまでは、患者さんが医療機関を選択する理由の多くは「かかりつけ医だから」、「医師に紹介されたから」であり、専門性が理由で選択されていることはまれでした。この度の制度設定が一般化されれば、正しい情報で医療機関を選ぶことが出来ます。
医療機関で診療を受けられる前に、そのような掲示があるかどうか、そしてその内容をチェックして欲しいものです。それは丁度ホテルに泊まった時、非常口を確かめておくようなものです。



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