Kensuke Esato,M.D.
江里 健輔
 
江里 健輔
山口大学名誉教授
山口県立大学学長・理事長
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癒やしのそよ風(ほうふ日報)

輝くべき玉が輝かない NEW
2006年11月30日

輝く玉が輝かない
     山口県立大学理事長(学長)
            江里 健輔

臓器売買事件の舞台になった宇和島徳州会病院の医師のあり方が問題になっています。発端は腎臓提供者とそれを受けた患者さんとの間で、金銭の受け渡しがあったことが判明し、調査するうちに新しい疑惑が生じてきたものです。それは、腎臓に病変があると診断し、やむをえず摘出した腎臓を他の患者さんに移植したことが新たに判明したことです。
この事件の大きな問題は担当医が「患者さんと臓器提供者が同意しているので、倫理的には何ら問題ない。同意書など取る必要はない」と述べていることです。医師の免許は国家が認可したものであります。従って、どのような状況にあろうとも法律の制約を受けることになります。生体腎移植には両者(臓器提供者、受給者)が口頭で同意したとしても、担当医の説明で同意したものであり、担当医の説明が第三者にも納得出来るような内容であったかどうかです。患者さんの医学・医療の知識は医師に比較して乏しいので、説明の仕方で、いくらでも医師の領域に取り込むことは出来ます。患者さんはただ医師を信用するのみです。腎臓移植のような高度先進医療はどの病院でも出来るものではありませんので、患者さんの立場は弱く、少々のことは不問に付し、移植を受けることを望まれるでしょう通常、患者さんおよび家族への説明には公平性を持たせるために看護師さんも立ち会い、説明した内容を記載し、その上で同意書を頂くようになっています。従って、担当医がどのような説明をしたか、後日検証出来るようになっています。同意書は説明に納得したということであり、受ける医療の全てに納得したことを示すものではありません。
この医師は本当に患者さんの為に全精力を注がれ、これまで沢山の腎移植をされただけに、同じ医療人として残念な気がしてたまりません。本人も何故自分が責められなければならないのかと忸怩たる思いでしょうが、一番基本となる社会の仕組みの中に存在していることが認識されていないことです。
最近、医療事故が増えるにつれて、また、病院経営の立場より、技術の優れた医師に多くの患者さんが集まっています。これは当然ですが、技術優先で、医師の品格が問われなくなりました。この事件の担当医は優れた技術を有しておられるので、医学会のような組織に加入することなく、一人孤高としてひたすら腎臓移植にエネルギーを注ぎ、日本でも有数な腎臓移植医になられたようです。評価される面もありますが、組織に加入し、いろいろな意見を耳にすることで独断と偏見に陥ることを避けることが出来ます。
社会に大きな影響力をもつ職業であればあるほど、単なる技術者になることの危険性を示す典型的な例と言えるでしょう。
本来ならば輝く玉であるものが、社会の仕組みを軽視したために残念な評価となりました。最終的には倫理感の欠如した医師を産んだ医学教育の貧困さに起因する事件です。
医学教育者に猛省を促したいものです。



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