Kensuke Esato,M.D.
江里 健輔
 
江里 健輔
山口大学名誉教授
山口県立大学学長・理事長
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風のとき(宇部日報)

医療人の本音 NEW
2007年01月12日

医療人の本音
       山口県立大学理事長(学長)
               江里 健輔


医師不足、とりわけ産科医、小児科医の不足が社会問題化しています。原因はこれら診療科を志望する医師が少ないから、と言われていますが、そうではないのです。小児科医数は小児1万人当たり平成10年7.3人、平成16年8.3人と増えています。一方、産科では平成10年9.4人、平成16年9.5人と横ばいであります(地域医療に関する関係省庁連絡会議より)。問題は急性期医療を担う病院の一人体制診療科が患者のニーズに対応しきれなくなったためです。医学・医療が高度化するにつれて、より綿密な、詳細な診断・治療を行うことが日常化しました。これをひとりの開業医が行うことはマンパワーおよび医療施設の面より不可能です。従って、患者さんは大病院へ、大病院へと集中します。このため、勤務医は多忙を極め、365日病院を離れられないため、少しでも楽な方へ、楽な方へと流れ、病院勤務医が少なくなり、深刻な医師不足を来すことになるわけです。
ある地域の医療を担っている病院の小児科医が辞めたために、地域の小児医療が壊滅状態になったということで、その病院長の力量が問われていました。病院長の主な仕事は医師を確保することで、それが出来ないのは責務を果たしていない、不適確者である、と非難されていました。
その病院長の弁です。
「小児医療は病院にとって不採算部門である。当病院は自治体病院ではないので、必ずしも地域の医療を守るために、病院が赤字を出してまで犠牲になる必要はない。病院開設者からは黒字にせよ、黒字にせよと日夜責められている。そのような状況でありながら、市当局は何らサポートもせず、小児科医不足を解消してくれ、と当然のように要求してくる。そんなに、小児医療がこの地域に必要とするのであれば、金銭的、人的なサポートをしてくれたらどうだ。市当局が小児科医を見つけて、この病院に勤務させて欲しいと言われれば喜んで引き受ける。2人いた小児科医が辞めたために、病院経営はすごく改善された。このままで推移すれば、本年度は黒字が経常されるでしょう」
と現在の状況を苦渋に満ちた表情で吐露してくれました。
いささか乱暴な話ですが、全く不合理な話でもありません。今日(こんにち)のように医療問題が大きく取り上げられている時代はありませんが、そのことは社会にとっては最も不幸なことです。医療問題が取り上げられるのが健康に対する意識が高まった結果であれば、何ら心配することはありませんが、その根底には医療経営が複雑に絡んでいることが問題なのです。医療はサービス業とされています。従って、如何なる場合でも患者さんの満足度を高めることが求められています。サービス業であれば、営利を追求するわけですから、ある程度の自由度があって当然です。しかし、現実は完全な統制下に管理されています。即ち、国が設定している診療報酬の枠内で医療を提供するシステムでありますから、患者さんへのサービスには限度があります。患者さんの求められる満足度は無限で、高度です。これらの要求に応えるには医療環境を整える行政支援が欲しいものです。現実にはその結果がここで述べたように市民が被害者となって表れるのです。



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