Kensuke Esato,M.D.
江里 健輔
 
江里 健輔
山口大学名誉教授
山口県立大学学長・理事長
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風のとき(宇部日報)

腎臓売買公認の記事に接し NEW
2007年02月21日

           腎臓売買公認の記事に接し
                  山口県立大学理事長(学長)
                            江里 健輔


我国では臓器移植待機者が多いにも拘わらず、いっこうに、臓器移植が促進されません。臓器の移植に関する法律が定められた平成9年7月16日から平成18年12月18日まで脳死臓器移植例数は192例(心臓39例、肺30例、肝臓35例、その他)で、そのうち生存数は162例と成績は極めて良好でありますが、移植数は残念ながら極めて少ない状態です(TSJCDF、2007,2,10より)。フィリピン政府は、腎臓移植を希望する外国人患者に対し、一定の条件を満たせば腎臓提供を認める新制度を導入する方針を固めた、と報道されました(読売新聞、平成19年2月2日)。これは外国人患者に腎臓提供者への生活支援費を拠出させるシステムであります。しかし、日本人が移植を受けた場合、国内の臓器移植法に違反しかねません。移植を受けるしか生存する方法がない患者さんにとっては極端な表現すれば、違反をしてでも臓器移植を受けたいと思われるのは当然です。社会はその気持ちを大切に考えるべきです。法律は人間が作るものですから、幸せになるように変えることを躊躇すべきではないでしょう。
私が病院長であった時の話です。28才位の青年が高所から落下し、意識を消失し、回復の可能性がありませんでした。彼の家族は健康な時から臓器を提供出来る状態になった場合には積極的に臓器を提供しようと話しあっていたそうです。その彼が不幸にも臓器を提供出来る状態になってしまい、家族から臓器提供が申し込まれました。しかし、彼はドナーカードを所有していませんでした。今の法律ではドナーカードがない限り、脳死での臓器摘出は出来ません。家族の方は元気な時から話をしてきたことなので、脳死臓器摘出を希望されましたが、法律を曲げることは出来ませんでした。最終的に心臓停止を待って臓器を摘出することにしました。心臓機能が低下するにつれて、心臓、肝臓、肺臓、腎臓などの重要臓器の機能も低下しますので、移植臓器としては役立ちません。最終的にこの患者さんの希望には添えず、臓器摘出を断念しました。気の毒なことをしたと無念でたまりませんでした。
法律によれば、臓器の摘出は死亡した者が生存中に臓器を移植術に使用されるために提供する意思を書面により表示している場合であって、その旨の告知を受けた遺族がその臓器の提出を拒まないとき・・・・摘出出来る、とあります。脳死体からの臓器移植はドナーカードのような本人の意思を証明するものが必要です。しかし、医療人側からみれば交通事故など全く心の準備もなく突然襲った不幸の真っ直中にある家族に「ドナーカードをおもちでしょうか」とか「臓器移植の意思がおありでしょうか」と質問するには大変なエネルギーがいります。自然な形で意思を確認出来る方法が是非欲しいものです。しばしば、死体解剖が学問の進歩の為に行われ、病気で死亡された場合には必ず病理解剖を勧めることが医療人として必要な勤めとされています。この場合では医学の進歩という大命題と共に薄謝があります。薄謝ですが、「感謝」という気持が着実に伝わります。臓器提供の場合にも人命救助という側面と感謝という気持を形で表現する方策があるべきです。臓器移植はあくまでもボランテイアであるべきですが、このようにドナーが不足する状態ではボランテイアに加えて、フイリピン政府のように我國にも受け入れ易いドナー提供環境をつくるべきです。
フイリピン政府の方針に対し我国の対応の遅れに医療人の一人として早急に改善策をとの思いです。



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