Kensuke Esato,M.D.
江里 健輔
 
江里 健輔
山口大学名誉教授
山口県立大学学長・理事長
執筆情報 [詳細ページ]
癒やしのそよ風(ほうふ日報)

何故、手を握るの NEW
2007年03月28日

何故、手を握るの
       山口県立大理事長(学長)
              江里 健輔


人は嬉しい時、悲しい時に必ず隣の相手の手を握ったり、抱きついたり、涙を出したりします。それが自然で、なんのわだかまりもありません。どうしてこのような行動をするのでしょうか?これは嬉しいこと、悲しいことを分かち合いたい、という気持の表れであります。

これをバージニア大学心理学のJames A.Coan助教授とウイスコンシン大学の研究者らが科学的に証明しました(メデイカル・トリビュン、2007,3,1より抜粋)。彼らは結婚生活に満足している16組の夫婦の妻を対象に、脳MRIスキャンの検査中に弱い電気ショックを与え、その時の脅威に対する神経反応を測定しました。その場合、@夫の手を握った状態A知らない男性の手を握った状態B誰の手も握らない状態の3つの場合で行いました。その結果、脅威に対する神経反応は誰とも手を握らない状態と比較して、最も低下したのは、夫の手を握った状態、次いで、知らない男性の手を握った状態でありました。さらに、検査前には想像しなかった結果も証明出来たと述べています。すなわち、結婚生活がうまくいっているカップルほど神経反応は低下していた、すなわち、脅威をあまり感じなかったということです。

スキンシップの有用性については今更疑問を挟む余地がないほど、明らかですが、日常生活ではあまり実行されていないように思えます。最近は熟年離婚が増え、同居期間25年以上の熟年夫婦の離婚は、ここ10年で2倍に、同居期間30年以上に限ってみれば3倍近くになり、この増え方は離婚全体の増加率の2倍になり、そのほとんどが妻からの申し立てによると報告されています(YAHOO!JAPAN,2007,3,11)。熟年離婚の増加理由は医学・医療の進歩、生活環境の改善で、有史以来の長寿社会になったため、60歳の定年を迎えた夫婦は驚くほど長く二人だけの時間を過ごすことになります。これまでは朝、主人を送り、夕方、帰宅するまでは妻は自由時間でしたが、急に24時間一緒になるのですから、どのように対応してよいかわかりません。お互い、ただおろおろするばかりですから、ストレスが溜まり、我慢の限界が過ぎた時、離婚となるのでしょう。
医療の世界でも患者さんに対応する際にはスキンシップが治療効果を高めると言われています。患者さんと話す際には必ず、手を患者さんの肩におき、診察の歳には必ず両手を使うことで、患者さんは安心して診察・治療を受けられます。しばしば、医師が片手を白衣のポケットに入れ、聴診器を肩にかけ、患者さんと話す姿をみますが、如何にも権力的で違和感を覚えます。
悲しい、辛いことが多すぎる日本の社会でやれ、教育が悪いとか、政治が悪いとされ、いろいろな改善策が講じられています。これらも大切なことですが、Coan助教授の研究結果のように手を握るという極めて簡単なことがないがしろにされているように思えてなりません。
この報告は現在社会への警鐘です。




[ もどる ] [ HOME ]