Kensuke Esato,M.D.
江里 健輔
 
江里 健輔
山口大学名誉教授
山口県立大学学長・理事長
執筆情報 [詳細ページ]
風のとき(宇部日報)

教員希望者の減少
2007年04月06日

教員希望者の減少と産科医師不足
     山口県立大学理事長(学長)
              江里 健輔


3月16日付け読売新聞に「教員養成志願者減」という記事を目にしました。それによると、國公立大学の一般入試の志願者は昨年より1万6843人少ない48万8527人で、志願率も0.2ポイント下がり4.8倍だったが、その中で顕著なのは教員養成課程の学部志願倍率が昨年の4.9倍に比べ0.5ポイント少ない4.4倍で志願者数も4万6814であり、初めて5万人を切った、と報じています。
教育は國力の根幹に関わることであり、教員志望者の減少は極めて由々しきことであります。その原因は「ダメ教師の排除」のために終身制であった教員免許を10年更新する教員免許法改正案が今国会に提出されることにあるとコメントされています。これも原因の一つでしょうが、もっとも大きな原因は「社会のパッシング」であろうと思います。特に、自ら現場に足を踏み入れたことものなく、現場を調査もせずに、一方的な話のみ聞き入れてなされる一方的なコメントには耐えられないものがあり、時には教師が愛情をもってした行動が過大視され、時には暴力行為と取り扱われては生徒の指導に熱意が失われるのは当然です。セカンド・オピニオン外来でも、教室に入る途端にかって経験したパッシングが蘇り、胸が締め付けられ、動悸がし、とても教室に入ることが出来ない」という相談を受けたことがあります。このような先生は真面目な方が多く、あまりに一生懸命に指導したために、ちょっとした行為が非難されるようになったのです。
医療でも同じような事が多くあり、それが医師不足を招いています。医療では生命ぎりぎりの患者さんに手術をしなければならない時もあります。このような手術は「いちかばちか」で、手術しなければ、絶対助からないが、手術すれば数パーセントの確率で助かる可能性がある場合であります。手術施行の是非は家族の了解を得て行うのは当然ですが、今ではさらに治療についてのガイドラインがあります。ガイドラインに逸脱した手術をすることは許されません。成功率の可能性が少ない手術を行い、患者さんを不幸な状態に陥らせた場合、「手術適応でない患者に手術した。単なる興味本位のないものでもない」とパッシングを受けることになります。手術は結果次第で、100%の予測は不可能です。手術してみなければ判らない場合が多々あります。そこに多数の経験が必要とされることになります。しかし、現在のようにガイドラインが定められ、それに逸した手術は「不適切」と断定され、医療訴訟に発展する可能性を秘めています。きつく、きたなく、厳しいという3Kを持った外科医や産科医が少なくなるのは当然です。もっと早めに報酬を上げるなどの対策を講じていれば、現在のような状態を招かなかったことでしょう。
教員希望者減少はまさに産科医の減少とよく似た現象です。昭和32年ごろ、「でもしか先生」という言葉がはやりました。これは先生しかなれない、先生でもなるか、というような退廃的な、投げやりな風潮を表したものですが、その負いが後に日本教育力の低下を招き、大きな問題になったことが思い出されます。教育効果は数十年後に表れますので、検証は極めて難しいですが、免許更新制のような一方的な負荷を教員にかけるよりも、例えば、パッシングが妥当なものであるかどうかを判断する「パッシング裁定委員会」の設立や報酬を含め、教員の労働環境を整えることが第一優先です。そうすれば、質の高い人材が自然と集まり、免許更新制も不必要な制度になるでしょう。医師不足に至った経験からそう思えてなりません。



[ もどる ] [ HOME ]