Kensuke Esato,M.D.
江里 健輔
 
江里 健輔
山口大学名誉教授
山口県立大学学長・理事長
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癒やしのそよ風(ほうふ日報)

生殖に雄がいらない NEW
2007年09月05日

生殖に雄が要らない
       山口県立大学理事長(学長)
               江里 健輔

種族保存の原則をくつがえしかねない、とてつもない研究結果が発表されました。平成19年8月20日づけ読売新聞によりますと、精子なしで卵子だけを使って、40%以上の高い確率で子マウスを誕生させることに成功したということです。これは生殖に雄が要らない「単為発生」と呼ばれている技術で、雌雄を決定する精子がかかわらないため、雌のマウスしか誕生しません。開発者である東京農大の河野友宏教授は遺伝子改変を伴うため「人間への応用は全く考えていない」と話しておられますが、原子爆弾をつくるもとになる理論を考えたアインシュタインは第二次世界大戦で廣島に原子爆弾を投下して終戦になったことで、以後ずっと罪悪感に苦しんだように、この研究がもたらす影響を考えると、手放しで「素晴らしい研究」とエールを贈る気持にはなれません。
日本の離婚件数は平成元年の約20万件から平成14年の29万件(結婚数との比較でいえば、3人が結婚すると1人は離婚する計算となる)に増加し、現在は横ばい状態です。鳥越 碧著「兄いもうと」の中に正岡子規の妹である「律」が二度の離婚で、本人が家系に泥を塗ったと落ちこんでいる時、子規が「離婚なんて気にする必要はないよ。自分の人生は一度しかないのだから大切にするように」と励ましています。明治時代は2人に1人の割合で離婚していましたが、これは嫁を労働力と見なしていたためで、嫁入り先を逃げだしたり、離婚を恥とも屈辱とも思わなかったために、このように離婚が高率だったそうです。現在は明治時代に比べれば少ないのですが、それにしても「バツイチ」が自慢される奇妙な世の中になりました。すなわち、結婚し、子供をもうけ、子供を引き取って離婚するのが美徳の一つのような風潮があり、今回の研究結果が将来、離婚の可能性がある結婚を選ぶより、「単為発生」を希望する女性が増えるのではないかと、老婆心ながら不安を覚えています。
現代離婚の原因の主なものは「性格の不一致」であります。数10年間一緒に住んでいたカップルが「性格の不一致」が主な理由で離婚せざるを得ないことに少なからず疑問を感じます。。
しかし、離婚の原因は本当に些細なことが多いのです。一時、成田離婚という言葉が流行しました。これはパスポート忘れ、飛行機の乗り遅れ、荷物の紛失など極めて些細なことが原因で口論となり、出発直前または帰国後に離婚してしまうことを意味しました。女性が結婚前に数多くの海外経験があるのに対し、仕事中心の男性は海外経験が少ないために、旅行前には立派に見えた相手が新婚旅行では頼りにならない男性に見え、些細なことが許せなくなり、取り返しのできない口論に達するためのようです。
このように離婚の原因にはいろいろあるでしょうが、要は夫も妻も偉すぎるだけのことではないでしょうか?勿論、人格を否定されたような行動を許すことは出来ないでしょう。お互いが偉いので、当然、相手がまず妥協すべきであると思っているものですから、些細な口論が取り返しのつかないことに発展してしまいます。ちょっと、引き下がって、ほんの少し冷静に考え、あるいは、相手を認めれば、幸せなカップルになるのではないでしょうか?
「馬鹿になって、勝ちを取る」と言われていますが、賢明な「馬鹿」者になりたいものです。
生殖に雄が要らない「単為発生」社会にならぬように切に願っています。



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