Kensuke Esato,M.D.
江里 健輔
 
江里 健輔
山口大学名誉教授
山口県立大学学長・理事長
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その他

最後まで希望をまたせよう NEW
2007年12月21日

                    ぷちふりしゅ(平成20年1号)

 
            最後まで希望を持たせよう
             
山口県立大学理事長(学長)
                    江里 健輔


「E.キューブラー・ロス:死ぬ瞬間」には末期ガンと告知された患者さんの心の動揺が記載されています。それによると、第一段階:否認と孤立、第二段階:怒り、第三段階:取り引き、第四段階:抑鬱、第五段階:受容とされています。しかし、これらは順序立てて訪れるものではありません。患者さんにとっては段階をたどって受容に到達することが望ましいのです。
私の友人の中に多くの学生、友人などから慕われている魅力ある学者がいました。体が少しずつ侵されていくのを感じながら、忙しかったので、そのうち、そのうちと思いながら時が過ぎ、最後は立ち上がることも出来なくなったそうです。救急車で病院に運ばれ、そのまま入院となり、いろいろな検査を受け、最終的診断は末期肝臓ガンでした。それ以来、友人は延命の方法はないものかと肝移植を含めあらゆる治療法を模索されたようですが、お腹に水がたまっている状態ではもはや手術は出来ません。
そのような時、お見舞に行きました。彼の最初の言葉は
「担当医が『何もする方法がない、』と言い、点滴だけで全く治療して貰えない。残念で、残念で。手術が無理なのは納得しているが、薬や放射線治療などは効果がないのでしょうか?担当の先生に聞いて貰えないでしょうか」
でした。
私は
「きっと何か良い治療法がありますよ。今、肝臓ガンほどいろいろな治療で効果のある病気はありません。担当医に尋ねてみましょう」
「是非、お願いします。どうせ、駄目でも少しでも生きたいのです」

早速、担当医に連絡し、患者さんの気持を伝えました。担当医は
「そうでしたか?そう思われているとは知りませんでした。医療知識のある方ですので、現状を受容されていると思っていました。良く判りました。早速、奥さんと相談し、患者さんの不満、不安をなくすよう努めてみます」
翌日、患者さんの友人が
「先生、すっかり元気になられ、笑顔も見えます。担当医が『肝臓機能を高める注射を今日より始めましたので、少しずつ肝機能が快復するでしょう。期待してください』と言われ、先生は嬉しそうでした」
と連絡してきました。
しかし、残念ながら、患者さんはその3日後に不帰の人となられました。
この患者さんは末期ガンで、余命幾ばくもないことは納得しておられましたが、受容されている状態ではありませんでした。この場合、患者さんの家族および医療人がすることは患者さんに残された僅かの時間を満足に過ごして貰うように努めることです。『嘘も方便』という諺がありますが、この場合は許される『嘘』ではないでしょうか?確かに、腹に水が溜まったような状態で肝機能を高めるような薬がある筈もありません。しかし、その『嘘』は瞬間的にも患者さんにほんのりと温かい感触をよみがえらすことになりました。満足されたとは思いませんが、こころの安心を伝えたように思っています。
どのような人でも末期ガンになれば、そこにあるのは赤裸々な一人の人間です。最後まで希望を待たせるようにケアすることを忘れてはなりません。




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