Kensuke Esato,M.D.
江里 健輔
 
江里 健輔
山口大学名誉教授
山口県立大学学長・理事長
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文明が人間関係を疎遠にする NEW
2008年01月22日

文明が人間関係を疎遠にする
              山口県立大学理事長(学長)
                      江里 健輔

びっくりするような話を聞きました。最近のお母さんの50%以上は自分の赤ちゃんの「うんち」を汚いと感じるそうです。
「まさか!!」
と思わずにはおれません。
私は外科医を約40年間してきました。それはまさに「おしっこ」と「うんち」との戦いです。大きな手術をした後、患者さんの活動が始まる最初の兆候は「おしっこ」と「うんち」がスムーズに、かつ、充分出たかどうかです。手術の時全身麻酔をかけますので、腸や膀胱の活動が麻酔中はなくなりますが、麻酔が終われば、やがて、活動してきますが、活動が充分でないと「おしっこ」と「うんち」が出なくなったり、少なくなったりするからです。術後は毎日、これらの量、色、固さ、回数から患者さんの状態をチェックするのが外科医の大きな仕事です。これらの作業から多くの情報が得られますので、「おしっこ」と「うんち」が嫌いどころか一種の愛着を感じたものです。患者さんが重症であればあるほどこれらへの愛着は強まってきたものです。子育て中のお母さんが赤ちゃんの「おしっこ」と「うんち」に嫌悪感を覚えられるようでは愛情深い子育ては出来ないでしょう。
何故このようになったのかと子育て中のある若いお母さんに尋ねたところ
「そりゃそうですよ。今は赤ちゃんにやさしい紙おむつが簡単に手に入ります。これは便利で、『おしっこ』と『うんち』とが紙おむつと一緒にそのまま捨てられるんです。いちいち中身をチェックすることなんかしませんし、見ようととも思いません」
と人ごとのような返事が返ってきました。
「それでは赤ちゃんの腹具合がどんなかがわからないじゃないですか?」
と問いただしたところ
「私には赤ちゃんの『うんち』を見ても何のことか判りません。赤ちゃんの調子がおかしかったら、すぐ、お医者さんへ連れて行けば良いのですから」
この返事にはただ黙っているしかありませんでした。日頃から赤ちゃんの「おしっこ」と「うんち」をチェックしておけば、異常かどうか判るようになる筈です。昔といってもたかだか40年前まえまではおむつは布でありましたので、赤ちゃんが生まれるとなるとお母さんの子育て初仕事はおむつをつくることで、この時よりお腹にいる将来の赤ちゃんに愛情を感じられたものです。赤ちゃんが生まれれば、この布おむつを毎日数回替え、それを洗濯しなければなりません。洗濯する際には好き嫌いに関係なく、「うんち」を布おむつから手で洗い除かねばなりません。お母さんは意識することなく、毎日チェックされていたのです。
紙おむつは文明の賜の一つで有り難いことですが、結果的にはそれが母親と赤ちゃんの愛情関係を希薄にしてしまうことになっていると思います。このような例は他にも沢山あります。一家に自動車が一台であった時は家族全員が一台の車で移動し、車の中で会話が弾んだものです。それが、一人ひとりが自家用車を持つようになり、同じ場所に行くにも別々の車で行くようになり、弾む家族会話も出来ません。テレビも各部屋で一人ひとりが持つようになり、人間関係がますます疎遠になっていますが、そのうち、一人一人が一軒の家を持つようになった時には人間関係はどうなるのでしょうか、悲しいという思いしか想像出来ません。
少しでも家族の間で会話が出来る場が欲しいものです。人は他人との関わりの中で成長していくものではないでしょうか?



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