Kensuke Esato,M.D.
江里 健輔
 
江里 健輔
山口大学名誉教授
山口県立大学学長・理事長
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その他

何故、肥満は良くないのか NEW
2008年05月24日

            何故肥満は良くないのか?
                       
                山口県立大学理事長(学長)
                         江里 健輔

成人の有病者約千三百万人、予備軍千四百万人、計二千七百万人、その上、死因別死亡割合では六割と推計される生活習慣病。その対策として、2008年4月より国民健康保険を運営する自治体や健康保険組合に加入している40歳以上の全員に健康診断が義務ずけられました。具体的には「メタボリック(内臓脂肪)症候群」を照準に糖尿病、高血圧、高脂血症などをチェックするものであります。その理由はこれらの病気を持っている人は心筋梗塞や脳卒中、がんになりやすいからです。
今回は少しかた苦しい話ですが、健康を保つためにどうして肥満がよくないのか説明しましょう。
これまでは脂肪組織は単に脂肪をためて飢餓に備えるだけで、特に、女性に多いのは飢餓状態になっても子育てができるようにと神が創造したものであると一見理屈にあったように説明されていました。しかし、近年、脂肪にはいろいろな複雑な作用があることが判ってきました。それは脂肪組織の中には身体の働きをコントロールしているさまざまな物質(生理活性物質)が含まれていることが判ってきました。すなわち、脂肪が蓄積されるにつれて、体に都合の悪い悪玉物質が増え、体に都合のよい善玉物質が減ってくることが証明されたのです。
まず、悪玉物質が増えるとどんなことが起こるのでしょうか?
血管を収縮させる作用がある「アンジオテンシノーゲン」という物質が分泌されますので、血圧をがどんどん高くなってきます。
次ぎに、インスリンの働きを低下させる「TNF-α」という物質が分泌され、糖尿病を生じることになります。我々が食事で摂取した糖分は小腸でブドウ糖として吸収され、エネルギーとして活用されます。吸収されるにはインスリンの働きが必要となります。従って、インスリンの分泌が少なくなればいくら沢山の食事を取っても細胞に取り込まれません。そうすると、摂取した糖分は血液の中に残り、これが高血糖となり、糖分が血管の内面を被っている細胞を痛めます。
さらに、高脂血症の原因である中性脂肪が増え、高脂血症を抑える働きのある「HDLコレステロール」が減少してきます。
善玉物質が減るとどんなことが起こるのでしょうか?
善玉物質はインスリンの働きを良くし、血管の機能を良くして血圧を下げ、脂肪の分解を促進して、脂肪異常症を防ぐ働きをします。善玉物質と悪玉物質はお互い相反する働きがありますので、内臓脂肪の蓄積は高血圧、糖尿病、脂質異常を益々増長し、これが原因で動脈硬化が進み、その内に血管内腔が狭くなり、さらには閉塞し、死を早めることになります。ちなみに、これらの三者に肥満を加え、「死の四重奏」と呼ばれ、四つの症状が重複して現れると健康な人に比べて死の危険性はなんと35倍にも高まると言われています。
生活習慣病はその名前の通り食べ過ぎや運動不足などのアンバランスな生活が原因です。ですから、これは医師に受診して治して貰うような病気ではなく、自分が努力すれば発症を予防できる病気なのです。この度の「特定健診」の主な目的は生活習慣病を持っている人やその予備軍の人を出来るだけ減らすのが主な目的です。「特定健診」の結果、将来、生活習慣病の発症が十分考えられる人には生活をどのように変えればいいかをアドバイスしたり、変えるためのサポートまで行います。生活習慣病が増えると医療費がますますかさみます。健診などで患者や予備軍の人が少なくなれば、それは結局、医療費の抑制に繋がりますし、健康寿命も延長しますので、一挙両得ということになります。
しかし、最も大切な事は国民一人一人に健康への意識が十分あるかどうかという事です。



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