Kensuke Esato,M.D.
江里 健輔
 
江里 健輔
山口大学名誉教授
山口県立大学学長・理事長
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その他

音楽療法のすすめ(フリッシュ、7月)
2008年06月22日

              音楽療法の勧め
                    
                   山口県立大学理事長(学長)
                            江里 健輔

「音」を「楽しむ」と書いて「音楽」と言いますが、最近、音楽療法と言う言葉をしばしば聞くようになりました。我々は悲しい時や腹立つ時などで感情を抑えることが出来なくなった時、好きな音楽を聴くことで、気分が落ち着き、暗い道を通り過ぎたような晴れやかな気分になることを経験された方は多いことでしょう。このような効果に着目し、病院や特別老人施設では積極的に音楽を聞かせるように努めています。これは、音楽が喜び、目覚め、記憶に関わる神経系であるドパミン作動性中間皮質辺縁系に作用して、注意力とか気分を強めるからです。
最近、音楽療法について面白い研究が報告されています。
ヘルシンキ脳研究センターとヘルシンキ大学心理学部認知脳研究所のテポ・サルカモ氏らは脳梗塞患者に1日、2時間、2ケ月間、患者が好むクラシック、ホップス、ジャズのような好きな音楽を聴かせたところ、言語の記憶、注意力、更には集中力が何も聞かなかった患者にくらべ31%高く、気分も前向きになったと報告しています(メデイカル・トリビューン、2008,4,24より引用)。
これは音楽療法がすべての患者さんに効果があるという証明ではなく、他の治療に代替するものでもないが、脳梗塞発症直後の数週間から数ヵ月間は脳機能はまだまだ柔軟で、回復には重要な時期であるにも拘わらず、現実はほとんど病室に引きこもって動くこともなく、周りの人とも接することが少ないのが実情で、むしろ、安価で、導入しやすい音楽療法を積極的に取り入れることを勧めています。

代替療法は治療法のない末期ガン患者さんなどに多く用いられていますが、これで病気が治ると誤解されている人が多いことには驚かされます。しかし、このような例もあります。末期ガンの主人を抱えた奥様が
「主人は末期ガンで、『抗ガン剤、手術あるいは放射線治療などは体力を消耗させるだけで、何のプラスにもなりません。このままそっと主人の好きなようにさせて下さい』と担当医はアドバイスして下さいました。しかし、妻として、このまま何もしないで、主人を見放すわけにはまいりません。それで、ガンに効果があると宣伝されているアガリスクを飲ませてみようと思うのですが、どう思われますか?」
と質問されました。
私は
「アガリスクがガンに効いたという報告はありません。これで治ることを期待されては困ります。無駄な事だと思いますし、あまりお勧めしたくはありませんが、気休めに飲まれるのなら話しは別ですが・・・」
と答えました。その後、ご主人が亡くなられ、挨拶に来られたので
「あの時はアガリスクの無駄をもっと、もっと強調すれば良かったと反省しています。無駄なお金を使わせて申しわけなく思っています」
奥様は
「そんなことはございません。医師に全く手だてがないと匙を投げられて、主人と私は孤独に苛まされていましたが、効くかもしれないという淡い期待が持てるアガリスクがあるというだけで、心の支えになりました。先生の言われるようにガンには効きませんでしたが、主人や私をどれだけ癒してくれたかは計りしれません。本当に有り難うございました」
私はこの言葉を聞き、医療には病気を治すと共に、この世に生がある限り、生きているという前向きの気持を与えることも、もう一つの大きな役目である事を改めて認識させられました。音楽療法も病気を治すには無力かもしれませんが、患者さんに生き甲斐を与える手段としてはこれに勝るものはないかもしれません。





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