Kensuke Esato,M.D.
江里 健輔
 
江里 健輔
山口大学名誉教授
山口県立大学学長・理事長
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風のとき(宇部日報)

「ちょっと待ってて下さい」 NEW
2008年06月26日

「ちょっと待って下さい」は不安が募る
              
山口県立大学理事長(学長)
                         江里 健輔

ある割烹でのことです。私は自家用車で帰宅しなければならなかったので、乾杯が終わると同時にウーロン茶を仲居に所望しました。
仲居さんは
「今、お膳を配っていますので、ちょっと待って下さい。そのうちに持ってまいりますから」
と答えてくれました。これを聞いて腹立たしくなりました。この仲居さんの「ちょっと」がどれくらいの時間なのか私にはさっぱり判らないからです。案の定、ウーロン茶が手元にきたのは20分後でした。仲居さんはお客の所望より自分達の義務である配膳を優先したのです。
私がある病院の院長をしていた時の経験です。
高齢の患者さんが車椅子に座って、廊下で待っておられたので、
「どうされたのですか?何か待っておられるのでしょうか?」
と問い正したところ
「看護師さんがちょっとここで待つように言われたので。でも、15分立つのですが、まだ来られないんです」
と不安そうで、いらいらされていました。仲居さんと同じように看護師さんの「ちょっと」がどれくらいの時間なのか見当がつきませんので、この患者さんは1分が10分にも20分にも思えたのでしょう。看護師さんが「5分待っててネ」と具体的な数字を示せば、不安を感じることはなかったでしょう。
医療の現場では患者さんにいくら長く、懇切丁寧に病気を説明しても、見通しを説明しないと決して納得し、満足されません。最後はいつも
「それでこの病気は治るのでしょうか?」
と問い返されます。この場合、医師が
「なんとも言えません。治療してみないと」
と返答すると、患者さんはますます不安になられます。私は
「安心して下さい。必ず、元気になりますから」
と答えるようにしています。そう言いながら、若干の危惧を感じていますが、私の不安に比べたら、患者さんの満足感はそれ以上です。元気で退院される時、いつも
「入院前の先生のあの言葉に非常に元気づけられ、病気に立ち向かうことが出来ました。本当に有り難うございました」
とお礼の言葉を頂いたものです。私は術後、何の合併症も起こさず、回復する可能性が80%以上であれば、家族には治療の危険性を正しく伝えますが、患者さんには「大丈夫です」と元気に励ましてあげたものです。たとえ、私の予想したように運ばなくても、患者さんを不安に駆り立てるよりはるかに良い事だと思っています。
もっとも不安を覚えるのは先の見通しが立たない時です。どのような困難なことでも、先の見通しが立てば耐えられるものです。何故ならば、先の見通しが立てば、これからの生活設計を立て、実行に移すことが出来、達成感が得られます。その度に満足感と元気が出てきます。
先の見通しが不透明な「ちょっと待っててね」とか「あとで」と云われると、深い霧の中をさまようようで、益々、不安、失意が高まります。「5分待ってね」と具体的に示してあげることが、大切なことです。



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