Kensuke Esato,M.D.
江里 健輔
 
江里 健輔
山口大学名誉教授
山口県立大学学長・理事長
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その他

お嫁さんは他人か
2008年07月27日

お嫁さんは他人か身内か?
              
山口県立大学理事長(学長)
                      江里 健輔

肝臓の病気にもいろいろあって、生き長らえるためには移植を受けるしか方法がない場合があります。日本では死亡後に移植する脳死肝移植は肝臓の提供者が少なく、治療が成り立ちませんので、現在は、元気な人から肝臓の提供を受ける生体肝移植が世界に先駆けて始まりました。しかし、実際には元気な人から肝臓を貰うのですから、いろいろな問題があります。
あるお嫁さんの主人の弟が劇症肝炎で意識不明の状態になり、彼を救うには生体肝移植を受けるしか方法がないと医師に告げられました。この主人には3人の姉弟がいましたので、お嫁さんを含め一家全員が移植条件を満たしているかどうかを調べて貰うことになりました。お嫁さんはどうせ自分は血縁関係者ではないので、提供者になることは全くないだろうと思っていましたところ、検査の結果、唯一、お嫁さんだけが移植条件を満たしていることが判りました。お嫁さんには育ちざかりの3人の子供がおられました。
主人は
「お前もわが家に嫁に来たのだから、身内と同じだ。弟が生きるか死ぬかの瀬戸際に立たされ、生体肝移植をすれば助かると医者が言うているんだから、肝臓を提供するのは当然だろう。何故なら、両親や俺、そして、他の姉弟も移植条件を満たせば、当然、肝臓を提供するつもりじゃったのだから。お前がここで拒否するわけにもいかんじゃろう?」
でした。お嫁さんは育ちざかりの子供がいなかったら、肝臓をあげてもいいと思っていましたが、万一のことがあったらと思うとなかなか決心がつきませんでした。弟さんの病気は劇症肝炎ですから、時間的余裕はありません。ご主人が「もうこれ以上待てないと医者が言うんだ。早く決めてくれんにゃ困る。どうする。俺の立場も考えてみい」
と催促です。お嫁さんは3人の子供の優しい寝顔をみながら、私にはこの子供達を育てる天命がある、万一のことがあってはこの子供達に申しわけない、と意を決し、提供を断りました。弟はその7日後に亡くなられました。
主人の両親が
「弟は可哀相なことをしたね。助ける方法がなけりゃ諦めもつくが、助ける方法があったのにそれをしてやれなかった。親として、悔やんでも悔やんでも悔やみきれん!!」
とお嫁さんに聞こえんばかりに大きな声で話していました。お嫁さんはそれを聞く度に身が細る思いでした。最後には主人までが弟の死はお嫁さんが原因だと責めるようになりました。お嫁さんはとうとう耐えきれず、子供3人を連れて、離婚されました。
この話しを聞いて、どちらが悪いとか、間違っているとかは言えませんが、せめてご主人が「お前の命はお前のものだ、誰のものでもない、その上、お前には子供3人がいる。好きにせい」と3人の子育て中のお嫁さんの立場にたって、もっと思いやりのある対応をしてあげていたら、ここまで窮地に追い込むことはなかったでしょう。
2003年12月末までに2,667例の生体肝移植が行われています。2003 年には提供者の死亡も報告されているように、絶対に安心な手術ではありませんので、お嫁さんの決断は納得できます。それにしても、お嫁さんは身内なのでしょうか?それとも、他人なのでしょうか?貴方がこのお嫁さんの立場であれば、どうされますか?



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