Kensuke Esato,M.D.
江里 健輔
 
江里 健輔
山口大学名誉教授
山口県立大学学長・理事長
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癒やしのそよ風(ほうふ日報)

社会経済的地位 NEW
2008年10月23日

社会経済的地位が低いと死亡率が高くなる
               山口県立大学理事長(学長)
                        江里 健輔

「地獄の沙汰も金しだい」とか「金の切れ目が縁の切れ目」とかお金にまつわる諺が沢山ありますが、どうも縁起が良い方には用いられていません。私が小さい時、父親が
「お金を貯め、無駄使いはするな」
と耳にたこが出来るほど言ったものです。その理由は今のような国民皆保険ではありませんでしたので、病気になるとお医者さんに現金払いで診察を受けなければなりません。お金がなければ、お医者さんにかかることが出来ないのです。私の住んでいたところは田舎ですので、治療費の代わりにお米や野菜をお医者さんに持っていく人もありました。今の若い人には考えられないことですが、お金は「命」についで大切なものでした。「命」がお金に左右されるほど辛いことはありませんが、最近、あまり楽しくない奇妙な事実が報告されています(メデイカル・トリビューン、平成20年10月2日)。それは「社会経済的地位が低いと死亡率が高い」というものです。
エラスムス大学医療センターマッケンバッハ博士らは欧州22ヶ国における社会経済的格差と健康状態を比較して、次ぎのような結果を得ています。
教育レベルと死亡率の関係で、スウエーデンや英国の死亡率は教育レベルがもっとも低い群では高い群の2倍、ハンガリー、チェコ、ポーランドは4倍で、教育レベルが低いほど死亡率が高く、特に、心臓血管疾患でこの傾向が著しく、教育レベルが低いほど、心臓血管病で死亡する人が多かったと報告しています。この原因は教育レベルが低い人ほど喫煙と肥満者が多く、喫煙は男性に、肥満は女性に顕著であったとのことです。このような結果より、センターマッケンバッハ博士らは社会経済的地位が低い人は健康に対する自己評価が低く、このことが医療アクセスへの低下に繋がり、死亡率が高くなるというものです。従って、教育の機会、所得分布などを改善することで、このような死亡率の格差はなくなると結論づけています。
社会経済的地位が平均化し、欧米にくらべ格差が少なく、国民皆保険である現在の日本にこれを当てはめることは出来ないでしょうが、国民皆保険のなかった私の小学生時代の経験からも少々の病気は我慢していましたので、手遅れということは珍しいことではありませんでした。
この数年来、医療費抑制の一策として、医療に経済市場主義を導入しようという機運があります。医療でお金を儲けようとするのですから、お金のある人とない人で受ける医療の質が異なってくることになります。現在では入院料などには格差がありますが、生命に関与する基本的な面には格差がありません。WHOも日本の医療は世界一と発表していることより、如何なることがあろうとも、現在の医療制度は絶対に死守しなければならないことをセンターマッケンバッハ博士らの報告は我々に教えてくれていると思います。



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