Kensuke Esato,M.D.
江里 健輔
 
江里 健輔
山口大学名誉教授
山口県立大学学長・理事長
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その他

転院 NEW
2008年10月26日

              転院の意味は
                   山口県立大学理事長(学長)
                          江里 健輔

友人の母親の話です。
95歳のお婆ちゃんが長期療養型病院に入院していたが、急性肺炎に罹ったため、近くの急性期型療養病院に搬送され、人工呼吸器で管理されることになったそうです。しかし、呼吸困難などの症状が悪化し、人工呼吸管理が長くなりそうなので、気管切開が行われ、現在はこの気管切開口より人工呼吸がなされているとのことです。母親の話ではこれらの一連の治療については「お婆ちゃんの命を助けるためですよ」と説明されただけで、それ以外には全く相談もなく、あれよ、あれよというあいだに、予想もしなかった治療がどんどんなされたということです。
この家族では健康な時から、終末期に受ける治療について話し合いがなされており、お婆ちゃんは
「死に際はあっさり、綺麗でありたい」
と望んでいたそうで、お婆ちゃんを裏切るようになって申しわけないと嘆いておられました。お母さんは担当医も一生懸命されているし、これまで為されたことについては黙認するが、今の治療を直ぐに止めて貰うことは出来ないでしょうか、という相談でした。
「それでお婆ちゃんや家族の希望を担当医にはなされましたか?」
と問いただすと
「そうなんですよ、私達の希望を伝えましたところ、担当医は『それではどうしてお婆ちゃんをこの病院に搬送されたのですか?この病院は急性療養型病院ですから、この病院に移られたということは積極的に治療を受けられたいという希望があると理解したのですが、そうじゃなかったのですか?もし、治療を希望されないのなら、こちらに移ることはなかったのではないですか?今、人工呼吸器を外すと、お婆ちゃんはすぐなくなりますよ、それでいいんですか』と言われ、担当医の言われることも最もなことですので、それ以上何も言えずにいるんです」
と情けない顔をされていました。
私は次ぎのようにアドバイス致しました。
「担当医の言われる通りです。急性期療養型病院に移るということは、積極的治療を受けるたいという意志の表現ですから、今、すべての治療を中止して欲しいと言うことは簡単な問題ではありませんね。どうしても中止して欲しいと望まれるならば、お婆ちゃんは今意思表示できませんので、家族・親戚全員が『延命治療を望まない』というサイン入りの書類を病院に提出されたら如何でしょうか?そうしない限り、医師としても、治療を中止しないでしょう」
医学・医療の進歩は想像を絶するほど延命治療を可能にいたしました。呼吸が不十分であれば、人工呼吸器を、心不全になれば人工心臓を、腎不全になれが人工透析と、これらの器械を駆使すれば、心臓は拍動し続けます。問題はこのような治療してさらに活動出来る社会人になれる可能性があるか、さらには幸せになれるかどうかです。このお婆ちゃんのように人工呼吸器の管理下におかれた状態になると、それを中止して欲しいと言うことは即ち、『死』ですから、誰も言いたくありません。当然ですが、医師が決めるようなものでもありません。
家族一人ひとりが元気な時、自分の望むべき終末医療をはっきりとまわりの人達に示しておくことが大切であります。



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