Kensuke Esato,M.D.
江里 健輔
 
江里 健輔
山口大学名誉教授
山口県立大学学長・理事長
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風のとき(宇部日報)

規則を軽視する風潮 NEW
2008年12月02日

            規則を軽視する風潮
                    
                 山口県立大学理事長(学長)
                          江里 健輔

福沢諭吉の有名な著書「学問のすすめ」の中に次のような文章があります。
「法を軽んじる風潮に慣れると、国民全体が不誠実になり、ついには法を犯しても平気になっていくのである。たとえば、立ち小便をすることは禁じられている。だが、みんなこの法を無視して、警官にみつかるのだけ恐れている。もし、見つかったときは、法を犯したという反省の気持ちよりも、「運が悪かった」と警官に見つかったことの不幸を嘆いているのである」(岬龍一郎訳・解説より、原文のまま)。
このような提言がおおよそ130年まえの明治7年2月になされたこと事態、敬服の極みですが、それにしても、先人の素晴らしい提言にも拘わらず、現在社会には恥ずかしことが多すぎます。
数日前、所用で上京しました。東京では電車でも、地下鉄でも、人、ひとです。そして、一つでも空席があれば座ろうと張り切っている人ばかりです。
最近はどんな乗り物にも妊婦、赤ちゃんづれの人、お年寄り、さらには障害者のため、特別に設けられた席があります。私が座った前の席がこのような席でした。最初は40代らしき男性が座ろうとされ、私は黙って、この席は特別席ですよと言わんばかりに、人差し指をその席に向かって指しました。その男性は「ああ、そうか」と一人ごとを言いながら、立ち去られました。次に50代らしきの女性が座ろうとされましたが、「特別席」との表示に気付き他の席に座られました。その後も数人が同じように座ろうとしては気付き、この席が埋まることはありませんでした。
やがて、電車がとある駅から発車する直前、耳、指、腕に何ともわけの分からぬ色彩豊かなアクセサリーをいっぱいまとった20代前半と思われる女性が、息を弾ませながら車両に飛び込み、その席に座りました。私はやはり、その席が特別席であることを指で示しましたが、彼女はそれを完全に無視し、やがてハンドバックから手鏡を出し、化粧に夢中になってしまいました。
道徳とは人のふみ行うべき道、あるいは社会で、その成員の社会に対する、あるいは成員相互の行為の善悪を判断する基準として、一般に承認されている規範の総体。法律のような外面的強制力を伴うものではなく、個人の内面的な原理(新村 出編広辞苑より)、とされています。
この女性の行動は法律に反することではありませんが、一人の社会人として守らなくてはならない最低限度の約束には反すると思います。
社会という丈夫そうな組織が、知らぬ間に、ゆるんで暗闇へ浮き出しているように思え、先人達が培ってきた気品ある日本文化がこのような若者達に、果たして引き継がれるのだろうかと不安になりながら、私がもっと勇気を出して注意すべきだったと悩んでいるところです。




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