Kensuke Esato,M.D.
江里 健輔
 
江里 健輔
山口大学名誉教授
山口県立大学学長・理事長
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癒やしのそよ風(ほうふ日報)

医療と教職員精神疾患 NEW
2009年01月20日

医療と教職員精神疾患
               山口県立大学理事長(学長)
                      江里 健輔

平成20年12月26日の各新聞に「教職員精神疾患5000人」(朝日新聞)、「教職員の病気休職8000人」(日経新聞)という見だしが目につきました。問題は1997年以来、毎年休職者が増加していますが、それが精神疾患の増加によるものであることです。
その理由として文部科学省は@児童生徒や親との関係が変化し、以前の指導や対応では問題が解決できなくなった、A職場で教職員同士の支え合いが以前より希薄になった、B業務が多くなった、C本人の家庭事情などが「複雑に絡みあっている」としています。
私の知人で、学校教員から予備校に転職した人がいます。知人の言い分は「ちょっと注意すると、直ぐ保護者が出て来て、私の注意が正当なものであるかどうか調査される。こんな馬鹿げたことで、本気に教育できますか?」でした。この知人は予備校に転職するだけの能力があったので、嫌な現場から逃れることが出来たのでしょうが、逃れることの出来ない先生はどうしようもありません。最終的には自分で抱え込んで、悩んで、休職することになるのでしょう。
医療にも同様な事があります。今の医療は診断・治療のへだたりを少なくするために、疾患ごとのガイドラインが出来ています。医師はこのガイドラインに則って治療すれば良いのですから、大変楽になりました。しかし、その反面、これで医師として全うしているかという不安に駆られることがあります。
例えば、私の専門領域の中に腹部大動脈瘤(腹の大きな血管にこぶが出来て、早晩、破裂して出血死となる病気)があります。ある患者さんが早朝、激烈な腹痛で病院に搬送されて来ました。診ると、瘤が破れて、出血し、血圧も40mmHとショック状態です。このような低血圧では手術することは出来ません。とりあえず、輸血して血圧を80mmHgぐらいにあげて、手術しようと決めました。しかし、腹の大きな血管から出血しているのですから、いくら輸血しても血圧は上がりません。出来るだけ早く出血を止めることです。しかし、この状態で手術することはガイドラインに則った治療ではありません。もし、手術して結果が良ければ、問題ないでしょうが、最悪の結果になった場合、
「手術成功見込みが極端に少ない患者さんに何故手術したのか?最初から手術ありきではなかったのか?」ときつく質問されます。
「患者さんを助けるために一か八かの治療です。手術して1%でも救う可能性があれば、それを行うことが何故悪いのですか?」
この論理がまかり通ったのは20年前までで、今、この様に反論しようものなら、医師免許をも剥奪されかねない大問題となります。どちらが正しいかは結果次第ですから、即断できませんが、このような医療問題を適性に評価する調査委員会が設けられようとされています。医療への不安・不満を直接医師、警察に申し出るのではなく、この調査委員会に申し出て、適性な判断を仰ぐものであります。
教育界でも、保護者からの苦情や教員の不安・不満を解決する調査委員会なるような組織があれば、教員のストレスも少なくなり、精神疾患で休職する割合は確実に減少するでしょう。
個々の教員が精神的悩みを解消するために、医師、心理士のカウンセリグを受けることも大切ですが、組織的に対応する策を早急に講じるべきです。



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