Kensuke Esato,M.D.
江里 健輔
 
江里 健輔
山口大学名誉教授
山口県立大学学長・理事長
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気持の良い音楽を聴こう NEW
2009年04月28日

気持の良い音楽を聴こう
              山口県立大学理事長(学長)
                       江里 健輔

いらいらした時、哀しい時、嬉しい時など喜怒哀楽に際して好きな音楽を聴くと心が和みますが、何故でしょうか?
脳には数百億以上の神経細胞がありますが、この細胞が感情や行動などあらゆる生命現象を調節しています。最も重要な役目をしているのが、神経伝達物質です。この中で最も知られている物質がカテコールアミンの一つでありますドーパミンです。この物質が運動、感情、学習のような高度の人間活動機能を調節し、快感させる源になっています。この物質の分泌量が極端に少なくなった病気がパーキンソン病です。モーツアルトは、ドーパミンが減少するために起こる病気で苦しみ、いつもいらいらしていましたが、音楽を聴いていると奇妙に心が落ち着き、平静な気持になったという有名な話しがあります。彼はこの経験を通じて、自分の感情が落ち着くような、心を癒してくれる音階、すなわち、出生前に母親のお腹で聴いていた音を主として構成したクラシックばかりを作り続けたそうです。特に人々を夢中にさせるために、あるいは、自分の名声を高めるために作曲したのでもなく、ひたすら自分が癒される音楽を求め続けたに過ぎませんでした。従って、モーツアルトの音楽は子供の心臓が脈打つような生理的リズムを持っていると言われています。そう言えば、子供を抱いている聖母像を見てもうなずけるように、多くの母親は子供を左胸に抱いています。これは左胸に心臓がありますので、子供は母親の心音を聴いていると安心し、落ち着くであろうという、知らず知らずのうちに培われた生活の知恵とも言えるでしょう。胎児は母親の心臓の鼓動を聴きながら、10ヶ月間お腹の中で育ちます。しかし、出生と同時にこれまでも聴いたことのない騒音の世界に投げ出されますので、不安と恐怖で、泣き叫ぶのですが、その時、母親の心音を聴かせてやれば、安心し、泣きやむとも言われています。
最近は医療の世界でも音楽療法がもてはやされています。患者さんはドーパミンの分泌を高めるような、ゆったりとした、もの静かな音楽を好まれます。このように音楽が、情緒など感情を左右することを科学的に証明した研究は少なかったのですが、最近、楽しいと感じる音楽は血管機能を高めるという論文が発表されました(メデイカル・トリビュン、2月5日2009より)。これによりますと、さまざまな音楽、例えば、楽しくなるようなリズムや、不安を感じるようなリズム、あるいは、リラックスするような音楽を聴かせたところ、楽しくなる音楽の時には、血管がもっとも拡張したという結果を得ています。血管が拡張しますと、血流が増加しますので、脳内エンドルフインが活性化するので、健康に良い影響を与えることになります。
このように音楽が心と体に与える効果が科学的に証明され始めてきています。健康寿命を延ばすには医療のみに頼るのではなく、いろいろな角度から自分のふさわしい方法を検討しなければならないことを教えてくれていると言えましょう。気持よい音楽を聴くことはその一つであると言えます。 



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