Kensuke Esato,M.D.
江里 健輔
 
江里 健輔
山口大学名誉教授
山口県立大学学長・理事長
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その他

退院を迫られる(ふりっしゅ19) NEW
2009年06月30日

退院を迫られる?
              山口県立大学理事長(学長)
                       江里 健輔

こんなメールが送られてきました。
「今年の1月7日に91歳になる父が脳梗塞で倒れ、現在、○○病院に入院しています。現在はベットで寝たきりで、鼻から栄養をとり、点滴をして貰っています。リハビリも少しずつ出来るようになり、私の気持ちとしてはこのままの状態で1年くらい入院させて、もっと回復させてあげたいのです。しかし、病院から他の医療施設に移るように言われています。近所の2つの病院にお願いしましたが、いずれも断られ、今は遠距離の隣の県にある病院の紹介状を貰っています。私が今、直面していることは今の日本の医療事情からみて当然なのでしょうか?」
残念ながら、現在ではこの状態は当然なのです。山口県内でも、このような患者さんから沢山の苦情が私のところに届いています。

それでは、病院は何故退院を迫るのでしょうか?

一般病院(治療を積極的に行う病院)の入院基本料は診療報酬という制度に基づいて、看護師さんの数で4段階に定められています。すなわち、入院患者さん7人に看護師さんを1人配置すると入院費用は1日15550円、10人では12690円、13人では10920円、15人では9540円です。看護師さんが多くなればなるほど、入院料は高くなります。その上、入院が14日以内の期間では4280円、15日以上30日以内の期間では1920円が1日についてそれぞれ加算されます。30日以上の期間になりますと、全く加算されなくなります。
今、全国自治体病院の70%は赤字で、病院,
特に公的病院はその経営で苦しんでいます。そのために、少しでも収入を増やそうと躍起となっています。入院期間が短ければ短いほど、基本料金に加算料金がありますので、患者さんに長く入院して貰いたくないのです。病院が赤字となると、当局から責められ、マスコミなどからは自浄努力が足りないと批判されます。確かに、自浄努力をして、経営改善しなければならない点が沢山あります。病院長としては、患者さんが早く退院されれば病院収入が増えますので、有能な病院長といわれますが、一方では患者さんに痛みを与えることになりますので、医師としては苦渋の決断となります。病院経営者としての立場と患者さんの希望を叶えてあげたいという医療人の立場が諸刃の剣となることになります。いずれをとっても、心の傷として残ることになります。
それでは、患者さんはどうすれば良いのでしょうか?
長期療養を必要とする患者さんが入院できる病床には医療病床と介護病床があります。前者は医学的管理が必要な患者さんを受け入れるもので、後者は要介護者を受け入れるものです。問題は治療あるいは介護をほとんど必要としない患者さんが入院されている割合が医療病床では48.8%,介護病床では50.1%であったことです。当局は医療資源を効率的に活用するために平成23年までに介護療養病床を廃し、医療の必要性の低い患者については、病院ではなく、老人保健施設、ケアハウス、特別養護老人ホーム、在宅療養支援拠点等で対応することにしています。したがって、元気な時、意思決定ができる時、これらの施設を見学し、快適な老後を過ごすにはどのような施設に入所すれば良いかを決めておくことが必要となります。
楽しい、快適な、安らぎのある老後を過ごすには、老後の在り方を自分で決めなさい、ということをこのメールは我々に教えていると考えるべきでしょう。皆さんも、自分の事として今から準備しておくことです。



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