Kensuke Esato,M.D.
江里 健輔
 
江里 健輔
山口大学名誉教授
山口県立大学学長・理事長
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その他

それでも反対 NEW
2009年08月29日

               それでも反対
              -改正臓器移植法成立-

かねてより懸案であった改正臓器移植法案が平成21年7月14日成立しました。多くの医療人は、ようやく、これまでより一歩踏み込んだ案が通過した。まだまだ検討すべき問題が沢山あるが、とりあえず「やっと通過したか。これで多くの患者さんを救うことが出来る。臓器移植が特別な医療ではなく、欧米と同じ目線で行えるようになった」と目頭を熱くしています。

それに対し、生命倫理の学者らでつくる「生命倫理会議」では「脳死は人の死と科学的に立証出来ていない」などと緊急声明を発表し、その代表者である小松氏は「脳死イコール人の死と国民的合意ができているとは思えない。わずかな論議で可決したことは将来に多くの禍根を残す」と非難しています(朝日新聞、2009,7,14)。
確かに、脳死患者に直接接した人であれば誰でも経験されることでありますが、心臓は動いている、呼吸もしている(人工呼吸器装着していれば)、なんと云っても体が暖かい、これを死と云えるか、移植医の頭にはまず移植ありきではないか、という不信を持たれるのは十分理解できますが、植物状態、脳死状態でない限り、早晩亡くなり、現在の医学・医療では救うことは出来ません。
1997年に施行された現行法から既に10年以上経過し、当初から現行法では臓器提供が少なく、臓器不足は免れないだろうということは医療界では想像していたことです。しかし、当時は「無いよりまし」、そのうち、現実的な法律に改正されるであろうという期待感がありました。重症心不全患者に対する脳死移植医療は標準術式であり、医学・医療的見地からも、世界的に受け入れられている治療法です。幸い、我が国の移植医療の成績は世界で冠たるものです。10年生存率が諸外国では50%程度であるのに対し、本邦はなんと90%と格段に優れ、それにもまして、心臓移植をうけた患者の66%が職場で活躍しています(JCS NEWSletter,2009,7,2より)。

この法案に反対の方々は助かる方法がありながら、それを受けられず、生死を彷徨い続けなければならない、余命幾ばくもない患者をどのように思い、どのような手を差しのべるつもりなのでしょうか?主張されるように、脳死は人の死と科学的に立証出来ていないのであれば、どうして世界で臓器移植が日常茶飯事に行われているのでしょうか?
臓器移植が唯一、最後の生きる手段である患者を目の前にして、国民の合意が得られるまで臓器移植をすべきではないではあまりに冷酷すぎます。
価値観の多様性は貴重なことで、この法案に反対されることは理解しますが、反対されるからには「国民的合意が得られるまでは、あなた方がなんらかの助かる治療を受けられるように、万難を排し、努力し、保証します」というような対応策を反対声明と同時に提案すべきです。それでこそ、「命は地球より重い」という言葉に魂を入れることになると思いますが?




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