Kensuke Esato,M.D.
江里 健輔
 
江里 健輔
山口大学名誉教授
山口県立大学学長・理事長
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風のとき(宇部日報)

身勝手な親心 NEW
2009年11月09日

身勝手な親心
           山口県立大学学長
                      江里 健輔

「横」という字は可哀相で、好ましからざる言葉に縁があります。横領、横流し、横恋、横車、横着など。全て身勝手なことばかりです。NHKの深夜便で、市川団十郎の人生経験談を耳にしました。聞き手が
「歌舞伎界では芸がスムーズに引き継がれているように思えますが、何か秘訣があるのですか?」
という問いに
「特別な手立てがあるわけではないのですが、ただ一つ、親の期待を絶対自分の子供におしつけないことぐらいでしょう。歌舞伎界では3歳ごろから子供に芸を習わせます。子供は少しずつ上達します。それにつれて、子供は『お父さんはいつ頃自分を舞台に立たせてくれるのでしょうか』と母親に訊ねてきます。その時、母親は『私がお父さんに舞台に出して下さるよう頼んであげましょう』とは言わず、『そんなに舞台に立ちたかったら、自分でお父さんにお願いしてみたら』」
と質問を子供に返すそうです。子供が心から舞台に上がりたいと思う時には、必ず、子供が「お父さん、私を舞台に立たして下さい」と頭をさげて、お願いするそうです。
その時、父親は慌てず、おもむろに
「考えておきましょう」
と即座に回答しないそうです。子供は父親の煮え切らぬ態度にいらいらし、母親に「お父さんは『わかりました。お前を舞台に出してやりましょう』と言われなかったのですよ。僕はどうしても出たいので、お母さんからも頼んで下さい」と母親にもお願い出するそうです。この機会を狙って、父親は
「そんなに舞台に上がりたいのではあれば、それを認めてあげましょう」
と威厳を持たせ、熟慮に熟慮を重ねた結論のように返事するそうです。団十郎さんの体験ですので、歌舞伎界のすべてがこのように行われているとは思いませんが、多くの役者は際限のない芸に必ず大きな壁に衝突し、その時、親の独断、横暴でさせられたものであれば、安易に放棄するが、自分で決めたことであれば、放棄出来ない、それが親の策略である、と。
団十郎さんは「私も親の作戦に満々と乗せられました」と苦笑しておられましたが、幸福そうに聞こえました。
今をときめくゴルフ界の救世者、石川 遼君が18歳の若さで、本年度賞金獲得王になろうとしています。彼は小学生の時、「将来の夢は20歳でマスターズでプレーすること」とたどたどしい字で書いているそうです。
多くの親は自分の子供には夢を託しますが、そこに、身勝手な「横着」、「横暴」、「パターナイズム、父権至上主義」があってはなりません。
貴方の周囲はどうですか?



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