Kensuke Esato,M.D.
江里 健輔
 
江里 健輔
山口大学名誉教授
山口県立大学学長・理事長
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風のとき(宇部日報)

一番でなければ駄目なのです NEW
2009年12月28日

1番でなければ駄目なのです。
         山口県立大学学長
              江里 健輔

政府の行政刷新会議の判定で、「何故、1番でなければならないのですか?」という発言が物議を醸したことは記憶に新しいことでしょう。その答えは「1番」であることが2番、3番よりもっとも達成感を与え、更に、希望や夢を与えてくれるからです。その代表的な出来事が「生命の誕生」です。一瞬、「生命の誕生」と「1番」であることは関係ないと思われでしょうが、一つの生命の誕生にはミステリアスな激烈な競争があるからです。
女性は毎月左右の卵巣から一つの卵子を作りますので、一生の間に約400個ぐらいの卵子を作ります。これに対し、男性が一度に排出する精子の数は約3億ぐらいです。それらの精子が女性の体内に入り、子宮、卵管を通り、卵管にある卵子の中に入りこんで、受精卵が誕生します。この受精卵は精子が通ってきた道を逆戻りし、卵管をへて子宮に達し、そこで着床(生育)します。子宮内で分裂を繰り返しながら、胎児となり、40週後に出産となり、一つの生命が誕生するわけです。従って、精子が卵子の中に取り込まれるのは3億の中の一個に過ぎず、それもどのような精子が取り込まれるのかは医学的には明らかではありません。専門家の話しによれば、最初に卵子にたどり着いた精子が取り込まれるのではなく、沢山の精子から一つを選択し、取り込むそうである。即ち、3億の精子の中のトップが受精卵誕生のチャンピオンになるのです。このような過酷な競争があることを知りますと、生命の誕生に期待し、夢を持つことが出来るのです、それだからこそ、その誕生を喜び、感激するのです。このように考えてみると、人は生まれながらにして競争が宿命づけられ、また、競争が好きな動物であると言えるかもしれません。その証拠にスポーツをはじめとし、芸術、文化、学術の領域でも一番を競います。そうして、1番になったことに感激し、涙を流し、見ている人達にも感動を与え涙をさそうのです。これは1番になるために流した汗と涙への敬意でもあります。
このように、1番になることの意義を理解していれば、冒頭の「何故、1番ではなければ駄目ですか?」という言葉が口から出る筈がありません。そこには温かい人間愛に欠けた、淡々と事務的に処理しようとする冷淡さが見え隠れし、喜怒哀楽を感じさせない、心の浅薄が感じられてくるのは私だけの思い過ごしでしょうか?



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