Kensuke Esato,M.D.
江里 健輔
 
江里 健輔
山口大学名誉教授
山口県立大学学長・理事長
執筆情報 [詳細ページ]
風のとき(宇部日報)

文明が絶つ社会の絆 NEW
2010年02月22日

文明が絶つ社会の絆
                山口県立大学学長
                      江里 健輔

近頃のお母さん達の50%以上は、自分の赤ちゃんの「うんち」「おしっこ」を汚いと感じるそうです。「まさか!!」と思わずにはいられません。
私の40年間にわたる外科医として体験から「うんち」「おしっこ」は医師として、日々、心の安定を得るバロメーターでした。長時間に及ぶ大手術の後、患者さんの快復の目安となるからです。量、色、固さ、そしてスムーズに出たかどうか、これらを正確にチェックすることが術後管理の最も重要な事であったからです。従って、嫌悪感を覚えるどころか、ある種の愛着を感じたものでした。
ある時、一人の子育て中のお母さんへこのことについて尋ねたことがあります。
すると、
「そんなに汚いとは思いませんよ。でも、今の紙おむつは『うんち』も『おしっこ』もそのまま一緒に捨てられて便利だから、いちいち、おむつを開けて中味をチェックしたりはしませんし、また、見ようとも思いません」
と、実にあっけらかんとした返事です。
「それじゃ、赤ちゃんの腹具合や水分が十分とれているのかが判らず、不安にはなりませんか?」
と、さらに聞いてみると
「赤ちゃんの『うんち』や『おしっこ』を見ても、私には何も判りません。それに赤ちゃんの具合がおかしかったら、すぐ、お医者さんへ連れて行けばいいのですから」と。
毎日『うんち』や『おしっこ』を観察しておけば、異常がすぐ判るのになあーと思いつつ、その時はただ黙っているしかありませんでした。
40年前までは、赤ちゃんが生まれるとなると、母親の初仕事は布おむつを作ることでした。そうすることで母親になることを自覚し、父親はその妻の姿をみて、お腹の赤ちゃんに愛情を感じたものです。また、赤ちゃんが生まれれば、布おむつを替え、洗濯しなければなりませんので、自然に「うんち」も「おしっこ」もチェックしていたのです。隣近所の人達にとっても、おむつが干されることで、赤ちゃんが生まれたことや、おむつの色柄で男の子か女の子かを知ることが出来、一種の情報公開にもなりました。
確かに、紙おむつは文明の産物で本当に便利で有り難いものですが、一方では親と子の愛情関係、隣近所との人間関係を希薄にし、社会の絆を弱めているのではないでしょうか?このような例は他にも沢山あります。テレビ、自家用車もその一つ。テレビは家族全員で見るものでしたし、自家用車も家族全員で乗るものでしたが、今では一人一人が持つ時代となり、家族全員が顔を合わせ、一緒に行動する機会が少なくなりました。いずれも文明の産物ですが、この文明に呑み込まれているのが現代の私達の社会のように思えてなりません。
今一度、この大切な絆を見直し、更に、高めるため、國を挙げて、何らかの策を練る時ではないでしょうか?




[ もどる ] [ HOME ]