Kensuke Esato,M.D.
江里 健輔
 
江里 健輔
山口大学名誉教授
山口県立大学学長・理事長
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風のとき(宇部日報)

とれる皺、取れない皺 NEW
2010年05月10日

とれる皺ととれない皺
          山口県立大学学長
               江里 健輔

家内が鏡の前で
「また、皺がふえたわ。鏡の前に立つのがいやになるね。お父さんはお医者でしょう。皺をとる良い方法はないかね。お父さんは本当に役に立たない医者じゃね」
と。朝から腹に立つセリフです。
「お前のその言葉が皺をふやすんだよ。皺がとれる言葉を考えたらどう?」
と言い返すと、家内はきょとんとしていました。そうなのです。皺にはとれる皺ととれない皺があるのです。
75歳の女性が少し前からもの忘れや地名を思い出せなくなくなり、不安になったので、脳神経外科で検査を受けました。
医師はCTやMRIを見ながら、
「間違いなく、アルツハイマー病ですね。脳が縮んでいます。最近、画期的な薬が開発されました。しかし、この薬の効く確率は10分の1です。飲みますか?」
と宣告しました。
「どのくらいで自分自身がわからなくなりますか?」
と問いかけたところ、医師は
「そんなこと、判りませんよ。貴方、自分の寿命がわかりますか?わからないでしょう」
と素っ気ない返事です。その上、その医師は女性と目を合わせず、机の上の書類を見ながら、
「なんで今日はご主人と一緒じゃないの?」
と、いかにも貴方と話してもムダという態度だったそうです。
この話を聞き、医師の一人として本当に恥ずかしい思いをしたものです。
歳を取ると言うこと、すなわち、老化は金属が酸化して起こる「サビ」と同じように、細胞が「サビ」るのです。30歳ごろの体の機能を100としますと、70歳では心臓は70%、全身の筋肉量は85%に低下します。皺は筋肉と皮膚の縮まる程度が不相応となり発生するもので、元には戻りません。我々は平均寿命とか健康寿命など「肉体余命」には真剣に考えますが、目に見えない精神とか、心、気力、魂などと呼ばれる力、すなわち、「精神余命」には無頓着です。私達は歳相応に出来る体の皺は思うようになりません。でも、前述のような心に皺を作る言葉を平然口にする医師には二度と受診しないなど、目に見えないけれども自分の意思で、すなわち、心で決められることは沢山あります。ですから、アルツハイマー病などのリスクを少なくするには学習習慣、活動的な生活など脳の強化を図ることが強調されています。平常から目には見えない魂や心の営みを愛おしみ、大切に養わなければなりません。


画像
(さわやかな空気です)



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