Kensuke Esato,M.D.
江里 健輔
 
江里 健輔
山口大学名誉教授
山口県立大学学長・理事長
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癒やしのそよ風(ほうふ日報)

ハーメルンの笛吹き男 NEW
2010年08月31日

         ハーメルンの笛吹き男
             山口県立大学学長(理事長)
                     江里 健輔

夏休みというのに運動場や地域の広場には子供の姿がまったく見当たりません。なんとも不思議な光景です。人の姿のない広場をみて思い出したのがグリム童話で知られる中世ドイツの伝説であるハーメルンの笛吹き男の話しです。不思議な男の吹く笛に、大勢の子らが吸い寄せられるようについて行き、そのまま消えてしまった、という物語です。この笛の音に子供の心をつかむ魔物のような魅力があったというのが話しのオチで、子供は環境によって支配されやすいという教えを説いたものです。
そこで、今の子供にとってもこの笛に相当するものは何だろうと考えてみました。霊長類学者の河合雅雄氏は現代の笛は「電波」で、この魔法の波が、かっては野山で遊び回っていた子供を誘惑し、室内に閉じこめてしまったと述べています(朝日新聞、平成22年7月28日より)。確かにコンピューターの普及などで、室内でいろいろな遊びが出来るようになり、外に出かける必要がなくなりました。私は河合雅雄氏の意見に賛同しながらも、親が介入する子供会もその一つではないかなあと思っています。子供会のイベントは大人達が考え、それを子供達にさせるものがほとんどで、子供は単に参加するだけになっています。確かに、いろいろな危険が背中合わせにある昨今では、大人達が計画したイベントを、大人達の監視のもとで行う限り危険も少なく、安心です。しかし、これでは子供らしい自然の発想が活きてきません。与えられたものをきちんとこなす画一性の人間には成長するでしょうが、豊かな想像力、独創力や個性が埋没してしまいます。私達の子供のころにはテレビやコンピューターはもちろんありませんでしたので、家にいてもすることがなく、必然的に外で、遊ぶことが唯一の楽しみでした。従って、どうしたら楽しい遊びになるかを自分達で考え、試行錯誤雄しながら遊びを覚えたものです。学校の運動場やお宮、お寺の広場が絶好の遊び場で、とにかく、そこにいけば誰かが遊んでいました。お互い物別れにならないように上手に喧嘩をしながら、良い人間関係を作ろうとしたものです。ここで「上手に喧嘩する」ということが大切で、本当に悪い友達関係になりますと、明日から遊ぶ友達がいなくなります。これは子供にとっては日常生活を奪われるほどの死活問題です。当時の親も子供の喧嘩には絶対介入しませんでした。親に言いつけても、助けてくれませんので、自分で解決しなければなりません。でも、今思うとこれが良かったのですね。
ドイツ教育学者のフレーベルは「遊びは人を強くする精神的沐浴」という名言を残しています。確かに、遊びは有形無形の人間力を高めてくれます。子供会などが悪いとは申しませんが、今少し踏み込んで子供がお互い切磋琢磨し、自主。自立の精神が育まれるような仕組みであって欲しいものです。



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