Kensuke Esato,M.D.
江里 健輔
 
江里 健輔
山口大学名誉教授
山口県立大学学長・理事長
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癒やしのそよ風(ほうふ日報)

ナチスの健康政策
2010年09月30日

           ナチスの健康政策
              山口県立大学学長(理事長)
                       江里 健輔

いきなりぶっそうなタイトルで、おこられそうですが、ナチスは「健康は義務である」と主張し、国民に健康であることを強制し、脂肪の過剰摂取を戒め、新鮮な野菜による食事を奨励し、歴史上でも今だに類をみないほど強圧的な病気撲滅運動を展開しました(日経ビジネス、2005年9月5日号)。
この運動そのものは悪いことではありませんが、健康であることが国民の義務で、これを国民に強制させたことが大きな誤りで、病人を生かしている価値がないという理由で、その延長戦上に大虐殺があったのです。健康はあくまでも本人の意思に基づくもので、人さまざまです。しかし、最近の我が国の健康キャンペーンは過剰ではないかと思う時がしばしばあります。これは、年間医療費が年々増加し、今や34兆円を超えようとし、このままでは日本経済が破壊しかねいという当局の危機意識が国民に100%の健康を求め、健康であることがステータスであるかのように、場合によっては強要しているような傾向があることです。その結果、国民が不健康になっていることが多々あるように思えてなりません。
過日、友人より問い合わせがありました。「コレステロールが230mg/dlと高いと言われた。このまま放置すれば、早晩、心筋梗塞にかかる恐れがあるので、何らかの手だてをするようにアドバイスされたが、薬を飲まなくちゃいけんのじゃろうか?」
でした。
「正常値の上限が210mg/dlだから、お前の年令(71歳)を考えれば、歳相応だから、あまり気にしなくてもよいと思うが・・・」
と返事しましたが、どうも納得していないようで、兎に角、正常値でない、普通の人より少し上であることが気になって、気のなって仕方ないようでありました。彼はこのコレステロール値で翻弄され、こころが不健康に陥って、自ら袋小路に迷い込んで、暗い夜の海をたった一人で漂流しているような頼りない面持ちであった。
私達は生きている一生の間ずっと、WHO(世界保健機関)が定義するような、社会的にも、経済的にも、肉体的にも健康な状態が長くあるはずはありません。人間は皆「病の器」で、「波風立たない穏やかな人生」などは無責任なセリフで、人生、谷あり、山ありのように、血圧が高い日もあれば、低い日もあり、冬になれば風邪を引き、春先になれば花粉症に悩まされるのは同然であります。上記の友人のように検査結果で一喜一憂することなく、病とともに生きるしぶとさも必要であります。それでこそ、健康と言えるのです。



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