Kensuke Esato,M.D.
江里 健輔
 
江里 健輔
山口大学名誉教授
山口県立大学学長・理事長
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これから必要な病床は NEW
2010年09月30日

拝啓山陽小野田市長様
    これから必要な病床は
      前自治体病院協議会理事
      山口県立大学理事長・学長
              江里 健輔

「うちのお婆ちゃんを病院か、老人ホームに入れたいが、6ヶ月待たねばならないと云われた。自宅介護で家族はくたくたで、もう限界です。どうにかなりませんか?」
という相談をよく受けます。市長さんのところにも同じような相談が舞い込んでいるでしょうが、どうされていますか?
最近、山陽小野田市新病院建設構想検討委員会が最終答申を白井市長に提出した。白井市長は「検討委の気持ちを受け取り、財政の課題を見極め、最大限の努力をしたい」と答えた(宇部日報より)。
答申では、新病院像は現在と同規模の十四診療科目、二百十五床とし、その上で「新病院は市の保険・医療・福祉・介護の融合の拠点という位置付けで、地域医療が完結できる環境の整備が望ましい」とある。十四診療科目を残すことは長期療養型病院より急性期医療を中心とした診療を行う病院であることを意味する。
それでは、山陽小野田市に現在のような急性期療養型病院が必要であろうか?
答えは「ノウ」である。
1.医療需要の展望
人口6万5千人の山陽小野田市には一般病床・急性期医療を行う公的病院として、ベット数313床の山口労災病院と一般病床と長期療養病床を兼ね備えた小野田赤十字病院があり、となりの宇部市には急性期および先進医療を行っている山口大学医学部付属病院と宇部興産中央病院がある。いずれも30分以内で患者を搬送することができ、山陽小野田市は医療施設としては極めて恵まれた環境にある。それにも関わらず、新病院の経営革新として、約56億円の予算で新病院を建設する予定となっている。新病院は悪性新生物(がん)、急性心筋梗塞、脳卒中、糖尿病などの診療機能整備充実し、外来収入単価を12,300円/人、入院収入単価を34,500円/人増を目標としている。しかし、この目標数値は急性期・先進医療を目指すにはあまりに低く、不十分である。すなわち、急性期・先進医療病院というより単なる一般病院としてリニューワルしようとするもので、新規性が全くなく、現在の病院形態を続けるようなもので、山口大学医学部付属病院は勿論のこと、山口労災病院の質を凌駕することは極めて難しい。さらに悪条件は大学病院が独立行政法人化され、自主・自立のもとに増収を強いられていることである。私が山口大学医学部付属病院長時代の平成12年度の稼働額は115億円であったが、平成21年度は160億余円と大学医療人の増収に対する認識は一般病院の医療人をはるかに超えている。山口大学医学部付属病院首脳陣は政府からの運営交付金に期待出来ない現状から、今後、年収を180億円にしなければ、自主・自立の病院経営は不可能であるという強い決意を述べている。
一方、平成20年の年間死亡者数は約115万余人であるが、団塊世代が80歳前後となる20年後には、死亡者数が160万人になろうと予測されている。80歳以上の患者さんに必要な医療は急性期医療より長期にケア出来る施設、すなわち、長期療養型病院あるいは介護老人福祉施設などである。特に、高齢者の病後の回復は若年者にくらべ遅く、その分だけ療養・介護期間が長くなる。しかし、急性期療養病院はDPCの導入などの理由で早期退院を推進するので、患者は自ずと退院を迫られる。しかし、受け入れてくれる施設が今でも十分でない。現在、我が国での医療病床数は一般病床91万床、療養病床34万床(医療保険療養病床24万床と介護保険療養病床10万床)であるが、自民党政権時代に医療費削減のため、介護療養病床をなくして、医療療養病床を22万床とし、介護・療養を必要とする患者は介護施設を利用するか、あるいは自宅で家族の世話を受けることが計画された(民主党政権で凍結、読売新聞、平成21年11月3日より)。政権が変わったことで、この計画が今後どのように配分されるか今のところ不明であるが、いずれにせよ、政府は高騰する医療費削減のため、居宅介護を推奨している。しかし、満足した居宅介護ができる家庭はそれほど多くない。従って、急性期治療が終わった患者、長期療養病院に入院中の患者が老人ホームのような施設に入所するには6ヶ月以上待たなくてはならない現在に厳しい状況が今後益々深刻化することは必至である。ちなみに、全国で特別養護老人ホームなどへの入所待機者は42万人で、この数は特別養護老人ホーム収容者数と同数である(朝日新聞、平成22年7月30日)。2025年には介護保険の総費用は現在の7.5兆円が19〜23兆円と2〜3倍強に増加するとされている(読売新聞、平成22年8月2日)。年々、高齢化になるにつれて、急性期医療のニーズより長期療養・介護のニーズが高まることは明らかである。
2.医療資源の有効利用
医療が高度化するにつれて、それをしっかりと支えるものは医療人の確保と先進医療機器の設置である。既に述べたように、山陽小野田市には本邦の労災病院の中でも質および経営面で注目されている山口労災病院がある。当然であるが、人口6万余人のような小規模の市で、山口労災病院、山陽小野田市民病院小野田赤十字病院の3つの病院が別々に先進医療機器を設置することは、機器の稼働、メインテナンス、操作する人材などあらゆる面で医療費の無駄である。1ヶ所に集めた方があるかに有効であることは。
一方、医師不足は解消せず、この状態はしばらく続くであろうが、その問題解決の一つの方法は病院の集中化である。最近では、192床の花巻厚生病院と260床の北上病院が合併し、患者にとっても、医療人にとっても満足できる急性期・高度医療を提供する病院として、県立中部病院に衣替えした。ちなみに、私の専門領域である外科部門では、外科医が山口労災病院には6人、山陽小野田市民病院には3人が勤務している。3人の外科チームでは高度な医療を提供することは不可能である。しかし、この二つに病院が合併あるいは連携し、9人体制となれば、大手術にも対応でき、患者さんに満足して戴ける施設となる。このような事情は2ないし3人からなる他の診療部門でも同様である。
3.山陽小野田市に望ましい医療環境
山陽小野田市は20年後の患者動向を賢察し、その方向に向かって新病院のあり方を考えるべきである。それには
@ 山陽小野田市民病院と山口労災病院は合併し、400〜500床からなる市の中核病院に変貌すべきである。わずか200余床規模の病院ではほどほどの医療を行うことはできるが、満足できる急性期・先進医療を市民に提供することは不可能である。
A 山陽小野田市の医療の充実には医療の機能分化を推進することである。それには質の同じような医療施設ではなく、急性期医療・先進医療を提供する施設と長期療養病床・介護を提供する施設に明確に組織化すべきである。そうすることで、介護難民のない安心・安全な市となるであろう。
B 上記の用件を達成するのは医療施設間のアクセスを確保することは最低の必要条件である。
このような実現には多くの問題が山積しているが、輝かしい山陽小野田市の医療を達成するために、市長の勇気ある決断を望みたい。.





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