Kensuke Esato,M.D.
江里 健輔
 
江里 健輔
山口大学名誉教授
山口県立大学学長・理事長
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癒やしのそよ風(ほうふ日報)

認知症、予防法があるの?
2010年11月19日

            防府日報
           (平成22年11月)

         認知症、予防法があるの?
            山口県立大学学長・理事長
                     江里 健輔

聡明と言われたふたりの友人が50歳前半に認知症になったことを知ったのは10年前のことです。ある時、その一人にばったりと名古屋駅で出会いましたが、奥さんが同行されていたこともあり、声をかけるのを躊躇しました。彼は心臓血管外科を専門とする某大学の教授で、学会活動も熱心で、しばしば厳しい質問を受け、返答に困り、壇上でたじろいたことがあっただけに、うつろな目をした彼の姿に接し、悪いこととは思いながら、自分の終末を見たようで本当にショックでした。彼の場合は遺伝的素因とされている若年性アルツハイマー型認知症ですので、それほど多くの患者さんがおられるわけではありませんが、日本の認知症の患者数は、2007年時点で約150万人、高齢者が人口の30%以上に達する2020年には300万人を超えると推計されています。原因となる主な病気はアルツハイマー病、脳血管障害その他です。ゆっくりと脳細胞が破壊されて、症状が少しずつ進行するので、ちょうど、真綿で首を締められているようなものですから、本人は勿論、家族にとってもその恐怖感には想像を絶するものがあります。
では、発症を遅延させたり、あるいは予防する方策があるのでしょうか?
ピッツバーグ大学のエリックソンらは1989年に平均年齢78歳の約300人を対象に身体活動と認知(または思考)を追跡し、9年後に高解像度のMRIスキャンで脳の大きさを測定したところ、より多く歩くことで、認知の要である脳の組織(海馬、下前頭回)が10年後には多くなった。しかも、定期的に週9.6〜14,5kmと長距離を歩く人のみに当てはまったとのことでした(http://www.carenet.com/newsより引用)。このように、運動が認知症抑制に効果があることは多く報告されています。本邦でも、茨城県利根町のデータがあります。これによると@週3〜5回、1回20〜60分の簡単な有酸素運動(平常の呼吸で出来る運動)、A魚肉に含まれるエイコサペンタエンアシッド(EPA)の不飽和脂肪酸などを含むサプリメント、B毎日30分以内の昼寝などの指導を受けたグループの認知症の発生率は3.1%であったのに対し、受けなかったグループは4.3%とかなり差が出ています(読売新聞、May/27'2006より引用)。
運動後は、誰もが気持ちが良くなります。これは、運動により脳を覚醒させ、快感を与え、創造性を発揮させる神経伝達物質であるドーパミン、体内麻薬であるβエンドルフインやストレス解消薬である副腎皮質刺激ホルモンがそれぞれ分泌されるからです。このように考えると、運動はメリットが多く、デメリットはほとんどありません。問題はそれを続けられるかどうかです。私ごとで恐縮ですが、私は雪が降ろうが、雨が降ろうが毎日早朝に1時間歩行しています。続けられるのは認知症になりたくない、それだけです。高い目標を持つことは大変よいことですが、その目標を継続することが負担になっては、身体にも心によくありません。軽い気持ちで始め、それを長く継続し、結果は10年先のお楽しみと思うことです。




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