Kensuke Esato,M.D.
江里 健輔
 
江里 健輔
山口大学名誉教授
山口県立大学学長・理事長
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その他

社会福祉士を考える NEW
2011年01月31日

          社会福祉士を考える
                山口県立大学学長 
                      江里 健輔

一般の人達は社会福祉士をどの程度認識されているのでしょうか?
次のようなメール相談を受けました。
「私は62歳の主婦です。主人は10年前にガンで亡くなり、今は26歳の一人息子と一緒に住んでいます。その息子が交通事故に出会い、救急病院に搬送され、脳挫傷と診断されました。集中治療室で、高度な治療を受けて、一命をとりとめることは出来たのですが、寝たきりで、記憶力低下、情緒不安定、感情をコントロールできないなどの脳障害後遺症となりました。救急病院から、病状が固定し、これ以上入院を続けても他に治療法がないため、リファビリが出来る病院への転院を勧められました。しかし、私のような素人にとってはどこのリファビリテーション病院がいいのか全く見当がつかないため、市役所に相談し、あるリファビリテーション病院を紹介して貰いました。その病院で足掛け1年間入院し、しもの処理以外は、介助があれば自分のことは自分で出来るようになりましたので、退院するように告げられました。しかし、家族は私一人で、私も生活のために働かなくてはなりませんので、息子を自宅で24時間ケアすることはできません。いろいろな人に相談しましたが、なかなか満足した回答が得られません。何か良い方法はないでしょうか?」
という相談でした。私は母親の近くに住んでいる社会福祉士を紹介し、相談されたらどうですか、と回答しました。その2週間後に、おかげさまで自宅からは少し離れているが、県内の療養所に入所出来ました。ここで、社会復帰に向けて、頑張りますという嬉しいメールが返ってきました。
一方、このような相談を山口県立大学の卒業生から受けたこともあります。
「私は4年前に山口県立大学社会福祉学部を卒業し、ある医療法人が経営する特別養護老人施設に就職し、現在に至っています。この施設に就職した動機は施設の理念が素晴らしいことでした。しかし、勤めるうちに、理念は絵に描いた餅みたいなもので、入所者の生活の質よりも経営がまず優先され、毎日、毎日が苦痛の連続です。我慢して、このままこの施設で働き続けることが賢明なのでしょうか」
でした。私の答えは施設長の理念を確認し、納得できないようであれば、早々に辞めることも考えるべきでしょうと回答しました。
いずれも現在の社会福祉士が抱えている「光と影」のようなものです。

社会福祉士はここ数年脚光を浴びた職種で、志望者が多く、大学進学も容易ではありませんでした。それに伴い、全国に社会福祉士を養成する大学、専門学校が急激に増えてきました。しかし、この2〜3年、この職種を希望する若者が減って、定員割れの大学が出てくるようになりました。
何故でしょうか?
社会福祉従事者が取得する資格には、社会福祉士、精神保健福祉士、介護福祉士があり、いずれも国家資格と位置づけられています。社会福祉士を養成する学校が加盟している日本社会福祉養成校協会(一般社団法人)は、正会員270校(平成21年7月現在)から構成され、そのうち、71%にあたる192校が4年制大学で、残りの29%が短期大学あるいは専修学校です。4年制大学卒業生は主として相談援助に携わる職種である社会福祉士と精神保健福祉士(ソーシャルワーカー)に、専門学校と短期大学卒業生は介護とその指導に当たる職種である介護福祉士(ケースワーカー)として従事しています。しかし、現状は、国家資格を取得した若者が希望あふれて、多種多様な障碍を持つ人のために尽くそうと就職し、現場で働くうちに、やがて希望を失い、疲れ果てて数年後には離職する割合が他の職種に比し高くなっています。この理由にはいろいろありますが、給与ベースアップ幅が低く、このままでは家庭さえ持つことが出来ないという失望感によるとされています。また、職種が明確でありません。例えば、社会福祉士の専門領域とも言える児童相談所や福祉事務所のケースワーカーなどは社会福祉士の資格がなくても従事できること、また、平成20年の診療報酬改定で、病棟等退院調整加算、介護支援連携指導料、NST(栄養サポートチーム)加算、新生児特定集中治療室退院調整加算、ガン患者リファビリテーション加算などが算定されましたが、その条件が、看護師または社会福祉士が配置されていること、あるいは社会福祉士が配置されていることが望ましいとなっている。病院経営者はこのような条件では職種の広い看護師の採用を優先します。このように、国は社会福祉士の業務を専門職として特化せず、また、認知していない実情が社会福祉士離れをもたらしていると申しても過言ではありません。この原因は国および自治体にあることは勿論ですが、社会福祉士を養成する学校関係者の怠慢も否定できません。

それでは、社会福祉士は将来希望ある職種となりうるのでしょうか?
ご承知にように日本の高齢化社会は急速に進んでいます。2025年には65歳以上の高齢者は3000万人を越え、その割合は30%を越えると予想されています。一方、高齢化に伴い、亡くなる人も増え、現在の年死亡者数は約115万人程度ですが、団塊世代が80歳になる20年後の2030年には約160万人になうと推計されています(読売新聞、Nov/3,2009)。当然、医療を必要とする人口も増えますので、2007年には34兆円に達したように医療費も年々増加します。国は医療費を抑制するために、医療療養病床24万床、介護療養病床10万床からなる長期療養病床34万床を見直し、介護療養病床をゼロにし、医療療養病床22万床にし、残りの12万人を居宅、あるいは老健施設あるいは有料老人ホームなどへの入所を勧める政策を打ち出しました。政権が民主党になり、現在凍結されていますが、いずれにしても何らかの対策を講じないと医療費が日本経済を崩壊しかねない状態が起こるでしょう。だからと言って、介護難民を出してよいということにはなりません。現在、特別養護老人ホームの入居待ちは42万1259人で、この数字は特別養護老人ホームの収容定員数とほぼ同じ数です(読売新聞、June/1,2010より)。このような入居待ちの高齢者が年々増えることに目をつぶるわけにはまいりません。面白い記事が朝日新聞に掲載されていました(朝日新聞、March/13,2009)。それによりますと、国は自宅介護を勧めている最中に、当時の責任者の本音として
麻生首相「四世代が同居していたので、介護の大変さは理解している。方向性としては舛添大臣が正しい」
舛添厚生労働大臣「母親の介護で苦労した。介護はプロに、家族は愛情のみ」
与謝野財務大臣「子供に面倒をみて貰えるとは思っていない。女房には迷惑かけられない、入れる施設があれば利用したい」
鳩山総務大臣「認知症の傾向が出たら、自宅よりグループホームの方が幸せ感があるのではないか?」
自宅介護を推進している立場の大臣がこのような考えであるにも関わらず、自宅介護を勧めるこのような人たちは心のない人間の形をした人間と言いたくなります。

人は誰しも美しい花園に囲まれた終幕でありたいと願っています。家族は勿論、いろいろな人たちの支援で、助け、助けられながら人の心が砂漠のように荒れ果てないように、喜びのある終幕であるようにしなければなりません。そのためには社会福祉士のようなサポートを主とする職種の人たちを大切にする社会環境を是が非でも必要です。20年後、大量の介護難民にならないよう、今からでも対策を講じておかなくては医療界のように医師不足、そして医療崩壊が生じることは火を見るより明らかであります。
為政者の先見性が欲しいものです。



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