Kensuke Esato,M.D.
江里 健輔
 
江里 健輔
山口大学名誉教授
山口県立大学学長・理事長
執筆情報 [詳細ページ]
癒やしのそよ風(ほうふ日報)

プラセボ効果 NEW
2011年02月15日

            プラセボ効果
                山口県立大学学長
                    江里 健輔

ご存じでしょうか?プラセボ効果を。
偽薬であるにも拘わらず、本ものの薬と思って飲むと著明な効果が出てくることを意味します。私ごとで恐縮ですが、昭和39年大學を卒業して、東京虎ノ門病院で卒後研修をしていた時の経験です。この頃の卒後研修時代は医師国家試験前に1年間研修することになっていましたので、医師の免許証がありませんでした。従って、毎日、見学だけですから、あまり面白くありませんでしたが、結構、いろいろな経験をしました。
虎ノ門病院の院長先生は沖中重雄東大名誉教授で、最終講義で大學時代の誤診率は35%であったと述べられ、随分マスコミを賑やかしたものです。多くの患者さんが沖中先生の診察を希望していましたが、薬を処方される時、具体的な薬の名前と量は指示されず、付き添い医師に「胃の薬を処方しておいて下さい」とか「化膿止めを」と指示されていました。患者さんは日本の有名な内科医が処方された薬と喜んで服用しておられました。これに対して、沖中先生が処方された薬と同じ薬を他の医師が処方しても
「先生、院長の沖中先生が処方された薬の方が良く効きます。あの薬を処方して下さいませんか?」
と患者さんが担当医にお願いしていたのをしばしば経験したものです。これこそがプラセボ効果であります。
人には「気」がありますので、気持が症状に影響するのはしばしばあることですが、このようなプラセボ効果が余りにも過剰になることはあまり良いことではありません。
ゴッホがスコットランド人画商の肖像画を描き、本人に送ったところ、画商の父親が「駄作だ」として5ポンドで売ってしまったそうです。今なら50億円を下らないだろうというその絵はT世紀以上も行方不明のままだ、と言われています。この父親が「駄作」だと評価したことは間違いではなく、また、もったいないことをしたとも思いません。モノの評価は己の評価であるべきで、他の因子、例えば、有名な人とか、○○大學の出身とかで決められるものではありません。そのためには各人が高い見識を持たねば、プラセボ効果に振り回されるようになり、モノを正しく評価出来なくなります。そのことが組織を曲がった方向に進ませる結果にもなりかねません。ですから、私達は絶えず学び、高い見識を持つように精進することを忘れてはならないと思います。
医療の世界はともかく、他の世界でプラセボ効果がまかり通る社会にしたくないものです。



[ もどる ] [ HOME ]