Kensuke Esato,M.D.
江里 健輔
 
江里 健輔
山口大学名誉教授
山口県立大学学長・理事長
執筆情報 [詳細ページ]
その他

この世との別れ NEW
2011年03月17日

           フリッシュ
         (平成23年3月号)
     
          この世との別れ
               山口県立大学学長
                      江里 健輔

ある老人教室の講演会での話しです。
70歳以上の代表的な疾患は高血圧、糖尿病、心臓病、脳卒中、ガンです。従って、これらの病気が高齢者のおもな死因となっています。そこで、
「どんな病気で死にたくありませんか」
と訊ねましたところ、多くの人達が
「出来れば『ガン』で死にたくありませんな」
と云われました。

理想的なこの世との別れとは@家族に見守られたい、A家族に迷惑をかけたくない、B何か生きていた証拠となるメーセージを残したい、C苦しまず、Dボケない事などが望ましいことであります。
これらを死因の最も多い心筋梗塞、脳卒中、ガンについて考えてみますと、心筋梗塞は突然襲ってきます。早期診断・早期治療であれば、何の後遺症もなく、元気になります。しかし、治療時期を逸したら、あっと云う間に亡くなってしまいます。そうなると、達成出来ることは、家族に迷惑をかけたくない、長く苦しまずということだけです。これに対し、脳卒中では治療が効を奏しても、半身不随など後遺症で日常生活は極度に制限されることになります。従って、家族に見守られたい、メッセージを残したい、絆を維持したいなどは得られますが、家族への迷惑ははかりしれないものとなり、その上何時終わるかも分からないケアを必要とします。長島茂雄さんのように半身麻痺を残しながら、どうにか自分のことは自分で出来るように快復することはすぐれたリファビリテーションを受けることが出来るきわめて希な恵まれた人に限られます。一方、末期ガンの場合は、家族に見守られるなど上記の@からDのほとんどを得ることが出来ます。闘病生活、特に痛みとの闘いは大変厳しいのですが、今では少々の痛みはコントロールできるようになりました。その上、闘病期間もある程度予想できますので、限られた期間に患者さんを満足した状態に維持することが出来ます。このように考えますと、ガンで亡くなることは悪いことばかりではありません。講演終了後、ここで挙げた病気がすべてこれまで述べたような状態になるわけではありませんが、一般的な話ということで、
「どうですか、何の病気で死にたいですか?」
と再度訊ねたところ、
「ガンで亡くなるのはしょうがないが、脳卒中にはなりたくない」という人達が増えました。

高血圧、糖尿病、心臓病、脳卒中はいずれも動脈硬化が主な原因です。血管が硬くなり、その壁が厚くなるために、血液が通る血管内腔が狭くなり、血液の流れが少なくなり、臓器にいろいろな支碍を来してくるものです。この現象は40歳代では53%, 60歳代では92.8%の割合で発生し、加齢とともにどんどん進みますが、その進行を遅らせることは必ずしも不可能なことではありません。この世に生を受けた時、その先には死があることは明白であります。そうであれば、この世と別れる時ぐらいは、理想的な状態でありたいものです。



[ もどる ] [ HOME ]