Kensuke Esato,M.D.
江里 健輔
 
江里 健輔
山口大学名誉教授
山口県立大学学長・理事長
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癒やしのそよ風(ほうふ日報)

専門家と云えども過信は禁物 NEW
2011年03月17日

         専門家と云えども過信は禁物
              山口県立大学学長(理事長)
                      江里 健輔

最近、私の身近なお二人(おふたり)が突然不幸に見舞われました。医療人の一人として腹ただしいかぎりで、返す言葉もありません。読者の方々に認識していただくために恥を忍んで紹介させて頂きます。
その一人は68歳の男性です。前立腺ガンで手術され、術後の経過も良好で、入院もわずか2週間たらずで退院されました。本人も進行ガンでなく、これから以前のように張り切って仕事が出来ると大変喜んでおられました。ところが、術後7ヶ月ごろより下血があるということで、相談を受けましたので、ひょっとすると大腸ガンかもしれないからと精密検査を受けることを勧め、病院を紹介しました。その結果、上行結腸ガンで、しかも、進行しているとのことでした。幸い、遠隔転移(大腸以外の肝臓とか、肺とかに拡がっていないという意味)はないとのことだったので、今のうちに手術しておけば、また、元気になれるだろうとの判断で手術されました。開腹したところ、ガンがすでに腹部全体に拡がり、所謂、癌性腹膜炎で、ガンを完全に摘出することは出来ませんでした。どう考えても、前立腺癌の手術の時、すでに、大腸ガンがあったに違いありませんが、せめてこの時に精査されていればこのような悲しいことにはならなかったでしょう。
もう一人の方は7年前に脳出血で緊急手術を受け、幸いにも、何の後遺症もなく、手術3ヶ月後には教職に復帰されました。その後、定期的に担当医である脳外科医を受診されていました。しかし、次第に、体重が減少するので、近くの消化器内科医を受診したところ、肝ガンで、すでに腹に水が溜まっているので、手術不能と診断されました。本人は積極的な治療を受けることなく、自宅で療養され4週間後に亡くなられました。この場合も、担当の脳外科医が「他に具合が悪いところはありませんか?」とか「疲れやすいことはありませんか?」とひと言訊ねていれば起こらなかったことでしょう。
いずれも医師は自分の専門分野のみを診察し、全身を診ていないために発生した悲劇で、末期になるまで気づかなかったということは許せないことです。
このような悲劇を繰り返さないためには、少しでも体に異常があれば、すぐに自ら、「精密検査をして下さい」と訴えることです。さらに勧めたいことは、年に1度は人間ドックを受けることです。決して、定期的に専門医の診察を受けているからと安心しないことです。専門医は自分の専門領域には詳しいですが、他の領域についても充分な知識があるとは申せません。また、医師は訴えがないかぎり分かりませんし、保険診療ですから、むやみに検査することも出来ません。体の異常を申し出なくても、自動的にチェックしてくれるという医療人への過信がこのような取り返しのつかない事態に発展いたします。
「自分の体は自分で守る」、このひと言につきます。




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