Kensuke Esato,M.D.
江里 健輔
 
江里 健輔
山口大学名誉教授
山口県立大学学長・理事長
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癒やしのそよ風(ほうふ日報)

初動対応が事を左右する NEW
2011年04月18日

           初動対応が事を左右する
               山口県立大学学長
                      江里 健輔

「一日の計は朝にあり、一年の計は元旦にあり」と云われるように、事がうまく運ぶかどうかは最初の対応が肝心であります。
巨大地震と大津波が襲った東日本大震災に対する政府の初動対応に批判が浴びせられています。我々国民は政府がどのように対応したかは新聞などのマスメデイアを通じてしか知りえませんが、私のような医療人にはこの政府の初動対応が医療の初期治療と重ね合います。政府の初動対応について読売新聞は
「原子炉冷却用のポンプ車の提供を申し入れたが断られた。しかし、その後使うことになった」
「日本は手伝ってもらうことはない、という態度だった。だが実際には米国は危機管理の能力がある。日本人は気づかないようだが、米国は核兵器のための原子炉も持っている」と、米国の提供にもかかわらずそれを受けようとしない日本政府の甘さ、鈍さに苛立っていると報じています(4,10,2011より)。
これが事実であれば、なぜ、初動から後手後手に回ったのか、国民にとっては大変悔やまれるところであります。いずれにしても、当局の事故認識がしっかりと把握されておらず、甘かったことに尽きるでしょう。医療でも残念ながらこれに似たようなことが発生することがあります。
ある患者が健康診断で胃透視を受け、異常もなく安心して帰宅されました。しかし、夕方より腹を絞るような痛みが時間おきに生じ、それが次第に頻回になったので、胃透視を受けた病院の救急外来を受診しました。時間外でしたので、救急外来当番の泌尿器科医師が診察しました。その医師は簡単な診察をした後、「たいしたことはないので、もう少し様子をみましょう。念のため、一晩入院してください」と、痛み止めの注射をされました。痛みも軽くなったので、安心し、入院することにしました。しかし、4時間後ぐらいから再び痛み始めたので、看護師さんにその旨伝えたところ、看護師さんは「痛い時には鎮痛剤を注射するように指示されていますので」ということで再び注射されました。その後、痛みは続きましたが、どうにか我慢し、早朝を迎えました。朝一番に外科医が診察し、レントゲン、CT検査などで直ちに緊急手術となりました。胃透視でバリウムが一塊となり、大腸を閉塞し、大腸が破裂し、腸内容が腹の中に漏れて、炎症が腹全体に広がった、所謂、汎発性急性腹膜炎という致死的な状態になっていたのです。幸い、人工肛門造設で生命をとりとめることができましたが、悔やまれることは、診察時間外であったため、専門医の診察をうけられなかったこと、看護師さんが患者さんの訴えに対し、機械的に対応し、専門医の診察を受けるような行動を取らなかったことなど、一つひとつの初動が不適切であったため、患者さんには本当に申しわけないことになってしまいました。
人の命を預かる職業に携わる人達は初動の対応が人の幸・不幸の岐路になることを肝に銘じて、先見性を持って対応すべきであることを忘れてはなりません。先見性のない人に命を委ねなければならないことほど不幸なことはありません。



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