Kensuke Esato,M.D.
江里 健輔
 
江里 健輔
山口大学名誉教授
山口県立大学学長・理事長
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風のとき(宇部日報)

弧族の國 NEW
2011年06月27日

                弧族の国
                  
                  山口県立大学学長(理事長)
                       江里 健輔

ご主人が入浴中に倒れた。救急車を呼びたいが、その場を離れるわけにはいかない。このような場合、貴方はどうされますか?大きな声で「助けて」と叫べば、すぐに助けてくれる隣人をお持ちですか?
最近、「弧族の国」という奇妙な言葉がはやっています。言葉が示すように、地域と関わりを持つことなく、孤立しながら生活している家族から構成されている国のことを意味します。神・仏がわれわれ人間に与ええた最大の贈りものは「家族」と云われています。そう言えば、動物は子育てしますが、家族という集合体を作りません。子育てが終われば、親子別々に生きて、お互いが助け合うこともありません。まるで、人間社会が動物社会とあまり変わらないような状態になってしまいました。
どうして、このような世の中になったのでしょうか?
個人情報が普及したためかもしれませんが、隣にどんな人が住んでいるかもしらない、まったく会話をしたことがない。そんなことに興味のないし、関わりたくもない。このような家族が増えていることは確かです。子育て、家事、看病、介護、供養をこれまでは家族が担ってきましたが、少子高齢化と一極集中型都市化、産業の発展のため、単身化、長期雇用の崩壊による不安、女性の社会進出、家族関係の希薄化などがどんどん進化し、家族という最小の社会が崩壊してしまったためでしょう。
このような家族で唯一の頼りは、1回利用すれば1万5000円かかる「緊急の場合ご連絡下さい」という業者が作った1枚のサービスカードだそうです。
逆戻りすることは容易ではないでしょうが、人間の原点である「助け、助けられ」の相互扶助の社会を崩壊してはならないと思います。私の生まれた山陰の田舎では15〜20軒位で構成された「死講」と呼ばれる組織がありました。この組織は、冠婚葬祭をはじめいろいろな出来事が生じた時、その家族は何もせずに、「死講」の家族が集まって手助けするものです。いまやこのような組織は都会は勿論のこと田舎でもなくなり、すべて業者が親戚や縁者に関係なく、無表情に事務的に淡々と行ってくれます。今、「弧族の国」から脱却するには、このような無償の相互扶助精神を活かした組織であると思います。
独居老人、弧族の家族が増える社会では「死講」という組織までに発展しなくても、せめて、何時でも、どこでも声をかけ合い助けてくれる隣近所の方々とのふれあいを大切にしたいものです。



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