Kensuke Esato,M.D.
江里 健輔
 
江里 健輔
山口大学名誉教授
山口県立大学学長・理事長
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その他

手術(その三) NEW
2011年07月16日

          
手術を受けることになりました(そのV)-検査結果が出るまでのもがきー
         山口県立大学学長
             江里 健輔

平成22年6月23日、3回目の前立腺の組織検査を受けました。担当医は検査をしながら
「あまり大きくありませんし、固くもないし、前立腺の表面も平滑ででこぼこしていませんので。まあ、ガンの可能性は少ないでしょうね」
と担当医もガンでなければよいがと云う期待感を含んだ言葉を発してくれました。しかしPSA値(ガンを示すマーカー)がこの10年間でだんだんと高くなり、下がったことが一度もなかったので、まあ、ガンだろうなあと思い、担当医が私の不安を取り除いてやろうとなぐさめの言葉を述べているのだ、という気持ちは有り難かったが、ほとんどうわの空で聞いていました。組織検査はなんら合併症なく翌日退院しました。ただ、これで結果がはっきりする。これまでガンかどうか10数年悩んできたことが終わると思うとなんだかどんよりとした灰色の雲の青空から一筋の光が射してくるような気持ちでした。まあ、ガンであっても、早期だろうし、前立腺ガンの治療は相当進歩し、結構、予後(病気の重篤度)もいいからと自分に都合の良いことばかりを考えていました。通常なら、組織診断には1週間以上かかるのですが、どうしても待ちきれないので、3日目に組織診断する医師が後輩で、知人であったため、電話しました。
彼は
「先生の切片をまだみていないのです。標本が出来ているかどうか聞いて見ます。ちょっと待ってください」
電話口で待つこと数分間
「今、できたそうです。今から顕微鏡で見ますから、結果は後で電話します」
であった。
会議やらお客さんとの応対をしながら、電話を待っていましたが、まったく連絡がないので、いらいらして再度電話しました。彼は
「担当医から連絡ありませんでしたか。結果は直ぐ担当医に連絡しましたので担当医に聞いてみて下さい」
となんだか頼りなさそうな、不安な声でした。
「じゃ、この電話を担当医に回して」
とお願いしながら、ガンでなければ「先生、心配不用です」と云うはずだが、云わないところを察すると、悪い知らせはしたくないという人間の温かい気持ちの表れだ、ガンだと確信しました。外来の看護師さんが電話口に出て
「今、先生は手が外せないので、後ほど先生から電話するそうです。すみませんが、待っていただけますか」
でした。
その声を聞き、仕事もそこそこに病院に行き、担当医を訊ねました。幸い、外来が終わったところで、担当医は
「10切片から1つの切片にガン細胞が見つかりました。やはりガンでした。どうしましょうか」
前立腺ガンの治療は@手術、A放射線治療、B化学療法があり、それぞれ一長一短がありますが、高齢者には手術はあまり積極的に勧められていません。何故なら、術後にいろいろな機能欠損、特に男性機能が損なわれ、QOL(生活の質)が極めて低下するからです。私の性格は「白か黒、灰色はない」というタイプですし、その上、ガン細胞が体の中で泳いでいる姿が耐えられない気持でしたので、手術以外の治療は最初から頭にありませんでした。
医学的知識の乏しい患者さんは「どうしましょうか」と医師から問われてもただ戸惑うだけで、決めることが出来ないだろうなあ、と今の医療に疑問を覚えたものです。医師が患者と同じ感情を共有できない限り、患者に満足される治療をしてあげることはできない事を改めて感じました。これまでの外科医としての自分を反省し、医師も一度患者として治療を受ける立場になったのも悪いことではなかろうと、なんだか複雑な気持ちになりました。




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