Kensuke Esato,M.D.
江里 健輔
 
江里 健輔
山口大学名誉教授
山口県立大学学長・理事長
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その他

CT 検査による放射線被爆量と原発 NEW
2011年07月25日

          燦
       (平成23年7月号)

   CT 検査による放射線被爆量と原発
        山口県立大学学長(理事長)
               江里 健輔

医療相談へのメールです
「私は肺ガンの疑いがあると診断され、昨年2つの病院で、計3回のCT(コンピューター断層撮影法検査)を受けました。最終的には肺ガンでなく、安心していました。ところが、友人から『頻回にCT検査を受けると、ガンになるから、あまりCTを受けない方がいいよ』と云われて不安になりました。大丈夫でしょうか?」
という質問でした。
東京電力福島第一原発事故で「シーベルト」という言葉がすっかり日本人になじんでしまいました。多くの方は「シーベルト」が放射線量を示す単位であることは知っておられるでしょうが、どの程度になれば人体に影響するかについてはご存じないでしょう。
「シーベルト」は放射線被曝量の単位です。これは放射線防護の研究で功績があったロルフ・マキシミリアン・シーベルトにちなんで用いられるようになった単位です。
最近、CT検査の急増に伴い、放射線を浴びることが原因でガンになる人が、米国で将来、ガン全体の2%に達する、とのショッキングな試算が米コロンビア大の研究チームより報告されました(読売新聞、1,27,2008より)。CT検査では痛みを伴わず、簡単で短時間で済み、非常に使い勝手がよいため、安易に用いられる傾向があります。この研究チームは米国民がCT検査で放射線を浴びる回数は1980年の300万回から2006年の6200万回へと爆発的に増え、91〜96年間に米国で発生したガンの0.4%はCT検査によるもので、将来は1.5〜2.0%に高まるであろうと警告しています。日本の場合、他の国と比較し、CT設置台数が多く、その上、CT検査を受けなければ手抜きをされ、損をしたというような文化があるので、患者も積極的にCT検査を受けるので、CT被爆量は米国に比べるとはるかに高いと想像されます。
1回のCT検査で人体は2〜3回放射線を浴び、その量は30〜90ミリシーベルトに達し、これは胸部レントゲン撮影の9000倍に相当するとのことです。このような結果より、研究チームは「CT検査による被爆がガン発生を引き起こす可能性は否定出来ないので、CT検査の回数を減らして、代替え策を工夫すべきである。特に子供への検査には細心の注意が必要である」と喚起しています。
このように忠告されても、素人にはさっぱりわかりません。一体被爆がどのレベルであれば危険なのでしょうか?
平成23年4月17日付け読売新聞によれば、放射線量がもっとも高い浪江町(赤宇木)では4月16日25.3マイクロ・シーベルト/時で、3月23日からの23日間分の積算線量が1万7010マイクロ・シーベルト(1000マイクロ・シーベルが1ミリシーベルトに相当するので、17.01ミリ・シーベルト) に達したと記載されています。この値だけについてみれば、CT検査1回分にも相当しないので、危険ではないでしょう。しかし、国際放射線防護委員会は公衆被爆線量限度を1ミリ・シーベルト/年(これは0.114マイクロ・シーベルルト/時に相当)としていますので、浪江町の放射線量は一般生活の限度を越えていることになります。従って、現在の線量が減ることなく、長期間続けば極めて憂慮すべき状態になることは明らかであります。
ガン発生確率について興味ある報告があります(http://ykawaguchi.za.ne.jp/blog/entry/2227450/より引用)。それによると、ある集団が20000ミリ・シーベルト(これは20シーベルト)浴びると、この線量につき1名のガンが発生すると見積もられる、と解説しています。ちなみに、4月4日の東京新宿の放射線量は0.1マイクロ・シーベルト/時間でした。これが体内に全部蓄積し、1年間継続して毎日あびると仮定すると、0.1×24×365=876マイクロ・シーベルト/年(0.876ミリ・シーベルトに相当)浴びることになります。これを山口県で見積もりますと、山口県人口が約150万人ですから、山口県全体で150×0,876=131万4千ミリ・シーベルトの放射線量を浴びる計算になります。従って、131万4千ミリ・シーベルト÷20000=65.7人。つまり4月4日の東京新宿の放射線量を1年継続して浴びると仮定すると,約66人の方にガンが発生する計算になります。これは確率の話ですから、確定的ではありませんので、恐怖におののく必要はないかもしれませんが、確実に言えることは放射性物質は安全ではないということです。従って、早め早めの対応が極めて重要であります。しかしながら、この度の東北関東大震災では国民を惑わせる情報が沢山ありました。例えば、原発事故による当該地の野菜出荷制限、摂取制限について政府は
「ただちに健康被害は出ない」
と発表し、手のひらを返すように
「ただ、状況継続が予想されるなかで、できるだけ摂取しないことが望ましい」
と。
国民はどちらを選択すべきなのでしょうか?こと、健康に関することですから、yes, noを明確に発表して貰わないと不安を生じるだけです。むしろはっきりと原発の終末が見えない状況では「摂取しないことが望ましい」と発表する方が国民は安心します。
医療の世界でも同じようなことが云えます。生命を左右するような手術では、例えば、「手術死亡5%」とはっきりと患者さんに伝える方が患者さんは安心されます。「手術死亡の割合は分かりませんが、100%安全ではありません」という説明では患者さんは安心して手術を受ける気持になられないでしょう。
私が山口大学附属病院長をしている時、台風が襲来し、電気系統が設置されている地下室が水で溢れ、停電となりました。急遽、自家発電で対応しましたが、病室の電灯まで配電することは無理でした。患者さんは不安がられ、「病室の電気は何時つくのでしょか?」という質問が多くでました。そこで、事務担当者と相談したところ、推定ですが、大体2週間後には全病室に配電できるでしょうという返答でありました。そこで、「2週間後には電気が点きますのでそれまで待って下さい」と伝えました。事務担当者は「もし電気が点かなければどうします?」と危惧しましたが、私の決心はゆるぎませんでした。仮に2週間後に電気が点かなければ、再度、電気の点く期日を告げればよい、オオカミ少年は一度ならゆるして貰える筈だと。病魔と闘う患者さんにとっては不安を解消させてあげることも安全を保証してあげると同じように大切であります。この度の原発では4月17日ようやく東京電力が修復工程表を示しました。福島第一原発周辺から避難されている住民は6〜9か月後には自宅に帰れるという計画をこころに立てることが出来、安堵した姿が報道に映し出されました。精神医学者で思想家であるV・E・フランクルは
「人は相当の苦悩には耐える力を持っているが、先の不透明には耐えられず、絶望的になる(一部改変)」、と述べています。
指導者に求められることは素早い先見性を示すことであります。それでこそ、国民が信頼出来る指導者と言えるでしょう。




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