Kensuke Esato,M.D.
江里 健輔
 
江里 健輔
山口大学名誉教授
山口県立大学学長・理事長
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風のとき(宇部日報)

良き納税者になろう NEW
2011年09月18日

      
     良き納税者になろう
           山口県立大学学長
             江里 健輔

増税論が活発ですが、増税を言い出すと選挙に負けるので、なかなか増税を政治の柱にする政治家がいません。今や日本の借金は毎分100万円づつ増えていると報道されていましたが、国民一人一人が真剣に対応しなければ、借金を次世代に残すことになりかねません。誰も増税を喜ぶ人はいませんが、何故、日本人は増税を極端に嫌うのでしょうか?多分、沢山の税金を納めても、老後が保証されていないので、手持ちのお金がないと不安になり、その気持ちが納税より貯蓄にと向いてしまうのでしょう。
私が勤務している山口県立大学の社会福祉学部長加登田恵子教授がこの夏、福祉研修のためにデンマークに出張され、興味ある話題を持ち帰ってくれましたので、紹介しましょう。
加登田教授はいろいろな施設を見学し、その中で、精神科病院の病室には一人の患者につき、二部屋とキッチンルーム、バス・トイレが完備され、玄関ロビーには医療費などの支払い窓口もなく、まるでホテルのようで、病院を感じさせない、時が静かに流れ、ゆったりとした空間の中で静養出来るようなっているのに感激したとのことでした。入院経費は年金から支払われ、その額は支給される年金額に応じて決まるので、不払いが生じることもなく、老後の心配がなく、“良き納税者になろう”がスローガンとなっているようだ、と語っていました。
現在、世界の中でも幸せ度1位はデンマークで、学力1位はフインランドであり、医療費、福祉費、教育費が無料であることは多くの日本人が知っているほど常識化していますが、その根底には高い納税にあるようです。2011年7月8日でのデンマークの所得税は60%、消費税は食料品のような生活必需品も含めて一律25%と日本人には想像できないほどの高額ですが、極端な貧乏人も、極端なお金持ちもいなくて、社会格差を示すジニア係数も低く、老後の生活を心配する必要がないことが幸福感を高めているのかもしれません。
これに対し、日本の幸せ度は90位と目を覆うばかりですが、政府が老後の面倒をみてくれる保証もないし、子供には負担をかけたくないし、生涯自立を余儀なくされそうな状態で、最後に頼るものはお金ということにならざるを得ないのでしょう。元気なときには収入を得ることも可能ですが、自立できないような高齢になると誰かの世話にならざるを得ません。少しでも豊かな老後と思えば、税金へ納めるお金は貯金にと思うのは当然です。しばしば、デンマークをモデルにした地域を試験的に我が国に設けたらどうだという意見もありますが、この国をどのようにするのか、例えば、米国型、あるいは北欧型、更には日本独自型にするのかを明確にしめし、老後の不安を解消できる青写真があれば、「良き納税者になろう」というスローガンを安心して受けいれることが出来るのでしょう。
V・E・フランクル(精神医学者、思想家)は述べています。「人は相当の苦悩には耐える力を持っているが、意味のわからない苦悩には耐えられない。意味を確信できないと、人は絶望的になる」と。
今こそ、将来を見据えた国家づくりが急務である時代はないと思われますが・・・現状をみますと、不安ばかりが広がります。



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