Kensuke Esato,M.D.
江里 健輔
 
江里 健輔
山口大学名誉教授
山口県立大学学長・理事長
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風のとき(宇部日報)

多い選択肢は幸せか? NEW
2012年03月12日

           
多い選択肢は幸せか?
              山口県立大学学長(理事長)
                     江里 健輔

医学・医療が進歩するにつれて、受けたい治療を患者さんが自分で決めるようになり、医師はアドバイスをするだけとなりました。従来は、医師が患者さんに最適と思う治療法を決め、それを患者さんがあまり疑問に思わず盲目的に受け入れていました(医師のパターナイズム)。受ける治療を自分が決めるのは当然なことですが、それには患者さんがある程度の医療知識を持っていることが条件になります。
1989年一夜にして東西ベルリンは一つの都市になり、自由に往き来できるようになったのはご承知の通りです。ベルリンの壁という鐵のカーテンがなくなり、東ドイツの住民は束縛あるいは抑圧された社会から開放され、自由が確保され、あらゆる選択肢が得られたことで、幸せになれたであろうと西欧の人達は思っていたのですが、実際は、そうでもなかったそうです(シーナ・アイエンガー:選択の科学、櫻井祐子訳、文藝春秋より一部改変)。それによると
「少ない選択肢を誰もが持てる社会と、選択肢は多いが、持てる人と持てない人がいる社会、どちらを好みますか?」
という質問に、東欧圏の人達は
「理論的には後者の世界が良い。しかし、多くの選択肢を手に入れられる人と、入れられない人がいる社会は、いろんな対立が生じるもととなるから、選択肢はみんな同じがいい」
と答えたそうです。
選択肢がほとんどなかった社会から、多種多様な選択肢のある社会に投げ込まれたため、選択することに不安と恐怖感があったということです。
この話は前述の治療の選択によく似た話です。
患者さんから「最近の医師は無責任ですね。病気のことをいろいろ説明してはくれますが、最後は“どの治療を受けるかは、家族とよく相談して自分で決めて下さい”と。素人の私に判るはずがないですよ。どうしたものでしょうか?」という質問をしばしば受けます。医学・医療は日進月歩です。それに伴い、受けられる治療の選択肢が益々拡がります。自分の身体は自分で守ることこと、これが基本となります。ですから、日常から積極的に医療に関心を持ち、正しい決断が出来る知識を少しずつでも修得することがますます求められることになります。

“追”山口県立大学では医療における自己決定権の確立を目指して、山口県内のトップランナーである医師等による「医学」公開講座を毎年4月より7月まで、毎週月曜日(17:50〜19:20)に設けています。ご活用下さい。




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